税理士に対する損害賠償事例の研究 (その他2)
97.1.16作成

税理士が、相続税対策として提案した変額保険についての説明・助言した内容が不十分だとして損害賠償を請求された事例

【事例】税理士Yは、前年死亡した夫の相続税の申告手続きの依頼されたXから、X自身が死亡した場合の相続対策について相談を受け、これに対してYは、銀行から土地を担保に保険料を借り入れ、生命保険に加入する方法等がある旨を話した。Xは、Yを紹介されたY2銀行に赴き、Y3保険会社を紹介された。Y3保険会社は、死亡保険金が最も高額となる一時払終身変額保険がXに最も有利な保険であると考え、保険設計書及び将来の解約返戻金と借入金累計の差額などを図表にしたシュミレーションを作成して税理士Yに渡した。Yは、Xにそのシュミレーションを示して、保険料は銀行からの借入金で賄い、相続時に借入金を返済し、残りを相続税納付資金とすれば、生保の利子の方が銀行の利子より高いので、借入金返済は十分可能で自己資金は必要ないなどを説明した。これを信じてXはY2銀行支店においてY3保険会社とこの保険契約の締結を行ったが、その後、締結した保険の運用益が低下し元本割れの事態となった。XはYらに対して虚偽の事実を告げる
などして契約締結を勧誘したとして不法行為による損害の賠償を求めた。

【問題点】
1,税理士がその職務として行った税理士業務以外の業務に係る責任の範囲は税理士業務と相違するか?

【解説】
1、変額保険
一 変額保険とは、保険会社による資産運用の実績によって保険金額等増減する生命保険で、契約後一生以外の保障がある終身型変額保険と、満期までの保障がある有期型変額保険がある。変額保険は、株価や為替等の変動が、直接に保険金等に連動し、保険会社の運用により又は加入時期により保険金等に大きな格差が出るため、運用リスクは保険契約者が負担するもので、極めて投機的な性格を有する保険である。変額保険は、米国等では従来より商品化されていたが、我が国では、保険審議会の「最近の国民の金利選好の高まりや高齢化の進展による生存保障ニーズの増大を背景として、変額保険へのニーズが高まっている。」との答申を受けて昭和61年より商品化された。しかし変額保険は投資効果の期待もさることながら、相続対策節税商品として脚光を浴び、相続対策で悩む納税者心理を突いた格好の商品となっていった。また丁度その頃から日本経済を襲うバブル景気に、変額保険はハイリターン商品だとして、保険会社、金融機関に資産家を巻き込んで踊らされることになった。しかし平成2年頃からバブル景気も陰りが見え始めると、ハイリスクの商品に多額の借入金をして契約した資産家は、損失を蒙ったとして、保険会社や銀行などの金融機関等に対して不法行為に基づく損害賠償、詐欺又は錯誤を理由とした契約取消し・無効に基づく不当利得返還や債務不存在確認の変額保険訴訟が多発した。その中で、税理士が果たした役割は、保険会社を紹介する程度の補助的なものから、契約にも立ち会うなど中心的なものまで各種ケースが考えられるが、税理士が契約締結に結びつくような説明をするなどの中心的な役割を果たすようなケースも皆無ではなかったと思われる。その時、保険契約をするクライアントのために果たすべき責任を果たしたかが問題とされる。
二 変額保険訴訟の裁判結果の推移は、当初は、契約者の判断と責任において保険契約が締結されたとして自己責任を認めた判決が多く見られた(東京地判平4・6・25金法1345.35、東京地判平5・2・10金法1356.46など)。その後、契約者から保険勧誘の具体的状況を録音したテープの提出により保険会社に勧誘行為の違法性を認めた判決が出されるようになり(東京地判平6・5・30金法1390.39)、銀行が敗訴した事件も僅かではあるが出てきている(東京地判平8・7・30金法1465.90など)。

この様に、専門家に対する責任は厳しくなりつつあるのは一般的な傾向になっている。

2,事例の検討
一 裁判例の検討

本事例は、東京地裁平成8年3月16日判決(判例時報1,575号71頁)を参考にしている。この事件では、裁判所は、次のように判示して税理士の責任を認めた。一連の変額保険訴訟で、税理士に対して損害賠償を命じた初めての判決である。
税理士Yは、Xの夫を被相続人とする相続税申告手続を担当した税理士であるから、Xが相続した資産の内容及びXの収入の概略を十分把握してしていたはずなのに、Yが行った相続対策としての本件変額保険の説明及び勧誘は,Yが報酬を請求した事務内容であるにもかかわらず、依頼者Xの具体的な資産関係及び収入の内容を踏まえることのない不十分なものであって、Xが相続対策として変額保険に加入しうるかどうかを決める際に正しい判断材料を与えたとはいえない。
Yは、報酬を請求しているのであるから、Xの資産及び収入を踏まえた上で、本件保険契約の運用率が低下した場合の問題点についても具体的に助言をすべきであったのに、むしろ本件保険契約の特別勘定の運用率が将来にわたって9%ないしその前後で効率で維持されるかのような誤った判断をもたらす説明を行った。
以上のような説明は、税理士がその職務として行った税務上の助言としては不十分なもので、税理士が顧客に対して負っている職務上の説明義務に違反し、Xに対する不法行為に該当する。
とした厳しいものであった。
三 問題点の検討
税理士がその職務として行った税理士業務以外の業務、例えば、コンサルタント業務、保険代理店業務などを税理士が職務として行えば、変額保険の勧誘に補助的に携わった場合の本事例でも検討されたように、今後は、税理士業務と同様な責任を追及される場合も少なくないであろう。この理由については、事例**でも検討したが、次の理由によるものと思われる。
イ、税理士は、一般に税務を初めとして経営、労務など幅広い知識を持つ専門家だと思われている。
ロ、国家資格という社会的責任を付与された税理士は、依頼人の信頼に応えるのは当然である。
ニ、専門家責任を論ずる場合に、専門家を相対的な意味で捉える傾向にある。例えば、「職業人」と「非職業人」、「資格者」と「無資格者」、「知る者」と「知らざる者」とした区分で、相対的な弱者を保護しようとする傾向がある。

【注意義務の範囲】

記帳代行など税理士業務に付随する会計業務(税理士法2A)による責任と「税務代理」、「税務書類の作成」や「税務相談」の事務を行う税理士業務による責任との関連については、明確にされているわけではないが、会計業務を税理士業務と併せて受任した場合には、そうでない場合と比べると、前者の方が税理士業務で要求される責任の範囲は拡大すると思われる。なぜならば、会計業務を併せて受任することにより当然知り得る情報が増加し注意義務の範囲が広がると考えられるからである。この点は注意すべきである。また、会計業務を別法人で受任した場合でも、代表者が同じであるとか使用人が代表者になっている、あるいは所在地が同じであれば、実質的には変わらず情報提供が得られることから同一に解するべきであろう。
以上

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Last Updated: 27/MAY/1997