税理士に対する損害賠償事例の研究 (その他1)
97.1.16作成

税理士が作成した虚偽の申告書を信頼して保証、担保提供した者が損害を蒙ったとして賠償請求を求められた事例。

【事例】税理士Yは、甲社の代表者乙の依頼を受け、税務署には真実の赤字の確定申告書を提出していたが、取引銀行にたいしては、黒字の虚偽の二期分の確定申告書(税務署の収受印とみられる印が押されていた)を作成していた。

Xは、乙から甲社のために事業資金の融資、銀行借入の保証、担保提供を頼まれ、上記虚偽の確定申告書及び試算表の提示を受けた。Yが二重の確定申告書を作成したのは、乙から「銀行には黒字だと言ってあるので、赤字の申告書を見せるわけにはいかないから、黒字のものを作ってもらいたいと」と言われたためで、Yは甲社の試算表を毎月作成して,Xに送付しており、甲社がXの尽力により資金の融通を受けていたことを知悉していた。
Xはこれを信じて甲社のために保証と担保提供した。これにより、甲社は金融機関より多額の融資を受けることができたが、結局赤字経営のため倒産した。Xは、税理士Yの作成した虚偽の書類を真実と信じたためだとして、Yに損害賠償を求めた。
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【問題点】
1,税理士は、依頼者から提供された、会計帳簿に基づいて税務書類を作成している限り、提供を受けた帳簿の記載内容に誤りがあっても税理士は、責任を免れないか?
1,税理士が委任を受けて提出した情報及び助言の契約関係にない第三者に提供された場合の責任の範囲は?

【解説】
1, 第三者に対する不法行為責任(民法709)

不法行為責任が生ずるための一般的な要件として、@行為者に故意又は過失があること、A他人の権利ないし利益に対する違法な侵害があること、B当該行為と因果関係のある損害が発生したこと、C行為者に責任能力があることが挙げられる。
不法行為責任と債務不履行(民法415)の相違は、@不法行為にあっては、被害者が加害者に故意・過失があったことを立証しなければならず、債務不履行では、債務者の方で、自己に故意・過失がなかったことの立証を要する、A不法行為責任では、三年の短期消滅時効が定められている(民法724)が、債務不履行責任における消滅時効は10年とされ(民法167@)ている。
債務不履行責任と不法行為責任に競合して該当する場合には、aこれら責任の何れも任意に請求して損害賠償の請求ができるとする請求権競合説と、b特別な契約関係に原因する債務不履行の責任が成立するときはまずその責任を主張すべきだとする請求権非競合説とに分かれ、判例及び多数の学説は、前者を広く認めている(『民法(7)』第三版有斐閣双書94頁)。

2,事例の検討
一 裁判例の検討

本事例は、仙台高裁昭和63年2月26日判決(判例時報1,269号86頁)と同旨であるので、ここに取り上げる。
判旨を次ぎに示す。
Yは、乙がこれを利用して融資先を欺いて金融を得ることを知りながら、すなわち甲に対して融資する者が損害を受けるかも知れないことを予見しながら甲社の実情を粉飾した書類を作成したものである。
以上によれば、Yは、その作成した書類の記載を信用して融資をし(保証をし、担保を提供した場合を含む)、損害を受けたものに対しては、その損害を賠償する義務がある。
としてXの責任を認めている。また、Xが、甲社の取締役になっていたことから帳簿等を調査すれば虚偽書類であることを知り得たとして、損害賠償額の認定では、一部過失相殺を認めている。

二 事例の検討

この判決以前の裁判例では、「税理士は税理士法に照らしても、本来依頼者の会計帳簿に基づいて所轄の税務署に対する税務申告を代行するについて受任関係に立つことをもって足り、またそれを超えることは許容されるものではなく、そうすると税理士は依頼者の租税に関してあらゆる有利を図らなければならない準委任上の義務を負うものでなく、依頼された個別的な申告手続代行についてのみ善良な管理者としての注意義務を負うに過ぎない」としていた(岐阜地裁大垣支部昭和61年11月28日判決、判例時報1,243号112頁)。
しかし、専門家責任の範囲がますます広がる傾向にある今日では、その適用される範囲は狭まっている。
本事例の場合、この様な事実認定から導かれる責任としては、裁判所の判断は妥当であろう。
三 問題点の検討
本件事例のように、税理士が、税理士倫理に反する内容虚偽の書類を作成した場合には明らかに不法行為責任を問われようが、このように明らかでない場合、例えば、税理士が依頼者から提供された会計帳簿に基づいて税務書類を作成したが、その提供を受けた帳簿の記載内容に誤りがあり、それに基づいて法律行為をした第三者に損害を与えた場合についての当該税理士の責任はどうであろうか。これについても、明らかに誤った資料であると認識できる場合、誤っているかどうかの確認をしようとすれば可能であるが、時間を掛けて確認しようとしない場合、あるいは確認が不可能な場合など様々なケースが考えられ、それぞれデリケートな問題となる。
また税理士の作成した書類が、第三者への情報等の提供が契約に基づいて行われた場合と、契約関係のない第三者が、この情報等を利用する場合とがあるが、これらが黙示によって行われるなど明確に区分できない場合も少なくない。一般に前者は後者より当然責任は重くなり、この場合には、依頼者の作成した会計帳簿に依拠するだけでは足りず、通常、専門家として払うべき注意義務が求められる。
何れの場合にも、税理士と言う専門家により作成された書類が、特定の目的のために作成されたものでも、その目的に関連して第三者に利用された場合に、発表を受けた者が現にそれを信頼して行動して、その結果経済的損失を受けた場合には、税理士は責任の追求を受ける可能性がある。しかしその作成した資料により損害を与えたとされる場合であっても、それが誤った原始帳簿の提出により作成された場合には、原則は、責任は否定されるべきであろうが、専門家として通常の注意を払えば誤りを見逃すことになれば責任は免れない。
しかし、現実には問題はそれ程単純ではない。無数に考えられるそれぞれに回答をだす他はない。
(現代民事責任法研究会「専門的職業人の誤情報提供と損害賠償責任−税理士の責任に関する裁判例を手がかりとした比較法的考察−」比較法雑誌23巻4号17頁を参考にした。)。
【注意義務の範囲】
税理士の作成した税務書類等の作成に至るまでの経緯、計算課程、作成時に相談に応じた事項及び明らかにされた不明点を具体的に記載し疎明資料として保存しておかなければならない。
以上

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Last Updated: 27/MAY/1997