税理士に対する損害賠償事例の研究 (相続税2)
97.1.16作成

相続税の申告に当たっては、依頼者に納付方法の確認を行い、一括納付が困難な場合にのは、延納申請手続きをするかどかの意思確認をするなどの助言・指導義務があるとした事例。

【事例】税理士Yは、知り合いの相続人Xから、遺産分割協議の確定に伴い、相続税の修正申告(法的には期限後申告書)の委任を受け、Xから委任状の交付を受け、修正申告を行った。このとき、Yは、Xから相続税の延納許可申請についての相談はなく、その申請は行なわなかった。その後,Xは相続財産である土地を売却して相続税を納付したが、修正申告書の提出時に延納申請をしなかったため、延納申請した場合の利子税と延滞税との差額の損害を受けたとしてYに賠償を求めた。なお、YはXに対してこの修正申告に係る報酬は請求していない。

【問題点】

この事例の問題点は、大きく分けると次の点にある。
1,報酬の有無は、責任範囲に影響を及ぼすかか?
1,税理士が責任を負うべき業務の範囲はどこまでか?
1,損害額は、確定した延滞税額と延納した場合の利子税額とが差額か?
これらについて検討する。

【解説】
1,税理士業務について
一 委任・準委任

我々の日常経済生活の大部分は無数の契約によってなりたっている。当事者は、契約自由の原則の下に、民法の定める13種類の典型契約(売買・交換・贈与・消費貸借・使用貸借・賃貸借・雇用・請負・委任・寄託・組合・終身定期金・和解)やその他特別法の定める契約(運送契約・保険契約など)のうちから、あるいは、それらの混合したとした契約を行っている。
対専門家との契約は通常は、委任ないし準委任契約、請負契約、両者の混合契約によっているが、税理士業務については、委嘱者である納税者から委任を受けて、その求めに応じて、委嘱者のために事務を処理する業務委嘱契約に基づいて職務をおこなうことから「委任(民法632)」「準委任(民法656)」であると考えられている。
のうち、一般には委任ないし準委任契約として考えられている。税理士とクライアントとの間も、 税理士業務については、委嘱者である納税者からから委任を受けて、その求めに応じて、委嘱者のために事務を処理する業務委嘱契約に基づいて職務をおこなうことから「委任」、「準委任」であると考えられている(松沢智同著『税理士の職務と責任』115頁以下)。
民法では、法文上は法律行為の委託を委任、法律行為でない事務の委託を準委任として区別しているが、結局委任とは、「事務」の委託をする契約で法律行為であるかを問わないので、両者を区別する実益はなく、ここでも「委任」として、「準委任」を取り立てて区別しない。
委任とは、当事者の一方(委任者)が他方(受任者)に対して事務の処理を委託し、他方がこれを承諾することによって成立する諾成、不要式の契約である。そして委任は原則として無償であるとしているが(民法648)、有償委任も排除していない(民法648)。税理士、弁護士のように委任を受けることがその者の業務に関する場合には、その委任が有償であることは、今日では原則となっている。
そして受任者は、委任の本旨に従って、善良な管理者の注意(善管注意)を以て委任事務を処理すべき義務を負う(民法644)。

二 税理士が行う業務

税理士業務とは、税理士法2@で、他人の求めに応じ、「税務代理」、「税務書類の作成」、「税務相談」をなす事務を行う業務を指している。税理士法(2条A)では、税理士は以上の税理士業務のほか、「税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事業を業として行うことができる。」と規定している。この2項付随業務についての性格については、必ずしも明らかではないが、自由業務について税理士業務に付随して行うことができることを確認した規定だとしている。誰でもできるが、税理士もできるという確認が法的にどのような性格をもつのかはおくとして、税理士の専門家責任については、その注意義務は、税理士業務、付随業務に限られない。税理士が行うコンサルタント業務や保険勧誘業務についても例外ではない。これは、専門家等の職業家は、「素人」よりは相対的に「高度な注意」を払うことが予定され、職業的活動の遂行には、それだけ予測可能な多くの利便と危険と責任を伴うことが知られている(河上正二「専門家の責任と契約理論」法律時報67巻2号6頁)。すなわち、税理士の行う業務について、税理士業務に限らず、注意義務が要求され、PL法の施行に現れているようにますますその傾向は顕著になっている。

2,相続税の延納申請
一 要件

相続税を含め国税は、金銭で一時に納付することを原則としている。相続の場合には、取得した財産が、金銭・預金などすぐに納税資金にまわせるものばかりではなく、換金性の困難な不動産が多い場合には、相続税を一時に金銭で納付することが困難な場合があることから、次の要件のもとに年賦延納の制度が設けられている(相法38)。
@ 期限内申告書、期限後申告書、修正申告書の提出により又は更正・決定により納付すべき相続税額が10万円を超えていること
A 納期限までに、または納付すべき日に金銭で納付することが困難であること
B 担保を提供すること
C 延納をしようとする相続税の納期限または納付すべき日までに、所定の事項を記載した延納申請書に担保の提供に関する書類を添付して提出すること

二 延納申請書の提出期限(相基通39-1)。

相続税又は贈与税の延納申請書提出期限は、
イ 期限内申告書及び相続財産法人に係る財産分与があった場合(相法31A)の修正申告書の提出による納付税額についての延納申請書は、これらの申告書の提出期限まで
口 期限後申告書や前記イ以外の修正申告書の提出による納付税額についての延納申請書は、これらの申告書の提出の日まで
ハ 更正または決定による納付税額についての延納申請書は、これらの通知書が発せられた日の翌日から起算して1か月を経過する日まで
とされている。
ニ 物納撤回に係る相続税額の延納申請書は、物納撤回申請の時まで
とされている。

3,事例の検討
一 判例の検討

本事例は、東京高裁平成7年6月19日判決(判例時報1,540号48頁)と同旨であることから、最初にこのケースを検討する。
高裁のした判断の要旨を次ぎに示す。
判決要旨
1,Yは、好意により修正申告書を作成しただけで、税理士業務の委任を受けていない旨の主張に対して、裁判所は、税理士がその業務に関する委任状を求めたことは、その委任状に記載された委任事項についての業務を受任したことに他ならない。また、委任状には延納許可申請することの委任事項の記載がないため、延納許可申請することが委任の内容となっていたとは認められず、本件委任契約の内容は、相続税の修正申告及びこれに関する税務調査の立会についてである。
2,税理士は、税務の専門家であるから、税務に関する法令、実務の専門知識を駆使して依頼者の要望に適切に応ずべき義務がある。すなわち相続税の修正申告手続を受任した場合には、善良な管理者として依頼者の利益に配慮する義務があることはもちろんであり(民法644条)、税理士法上の義務として、法令に適合した適切な申告をすべきことは当然であるが、法令の許容する範囲内で依頼者の利益を図る義務がある。そして、租税の申告(税額の確定作業)に伴い租税の納付が必要となることから、依頼者に納付の時期及び方法について周知させる必要がある。
3 したがって、Yは、相続税の納付がいつ必要であるのかを]らに説明し、その納付が可能であるかどうかを確認し、これができない場合には延納許可申請の手続をするかどうかについて]の意思を確認する義務がある。このような納付についての指導・助言を行うことは本件の事情のもとにおいては、単なるサービスというものではなく、相続税の確定申告に伴う付随業務であり、この懈怠については債務不履行責任を負うものと解するのが相当である。
4, 税理士法2条には税理士の行う業務を限定的に列挙しているが、これは税理士の資格が者に税理士業務を行うことを禁じること(税理士法52)のためにその範囲を明確にするためであって、税理士が受任する事務を限定したり、税理士の責任を負うべき事務の範囲を限定するものではない。
として、Yに損害の賠償の義務があるとした。

二 問題点の整理
イ、報酬の有無が責任範囲に影響を及ぼすかについては、通説では、注意義務の程度は、委任が有償であるか無償であるかによって区別されないとされている。これは、委任が当事者の信頼関係を基礎としていることによる。 しかし今日のように、有償委任が常態になっていることから、無償委任の場合には、注意義務の範囲を軽減すべきではないかとした意見もある(我妻栄『債権各論』中巻二、659頁)。

何れにしても、現時点では、無料相談であろうと、税理士の責任の範囲に相違がないと考えるべきであろう。今後、弁護士、税理士などの専門家報酬が高額であるという認識が一般となれば、無償、低額による報酬の場合の責任範囲は軽減されることになるかも知れない。このためら、税理士が安易に低額な報酬で業務を行うことは、専門家の責任範囲を曖昧にすることになるばかりでなく、高度な専門家として依頼者の信頼に応える妨げにもなろう。

ロ、税理士が責任を負うべき業務の範囲はどこまでかについては、以上記したように、税理士法規定された業務にとどまらないと思われる。委任者にとって、税理士は、一般人より専門分野ばかりでなくそれに付随した多くの知識を有している職業専門家であり、かつその様に期待される。

その結果として、税理士は、それに応えるだけの高度な知識、技術と経験を持たなければならないし、それに応える努力を怠ることは許されない。

ニ、損害額については、前記、高裁の判断では、当初から土地を売却して相続税を納付することを予定していたことから、売却するための相当と認められる期間、このケースの場合には修正申告書を提出した日から一年間について延滞税額と延納許可による利子税額の差額を認定した。1年間とした判断の根拠は明確ではないが、妥当な判断であろう。

【注意義務の範囲】

税理士は、納税者である委任者に十分な説明を尽くさなければならない旨は事例**で既に述べた。納付の方法について説明は、相続税の申告においては、特に重要となる。何故ならば、、納税額が、一般に高額になるケースが多く、トラブルはそういう場合に発生しやすいからである。
この事例では、説明義務の問題に加えて、延納申請時期を誤らないようにしなければならない。
延納申請は、修正申告、期限後申告や物納の撤回の場合には、少なくとも、それら提出と一緒に出さなければならない。相続税に限らないが、金銭による納付の場合にも、修正申告書を提出する前に、納付をする必要がある場合があることも気を付けておくべきであろう。

参考文献
・日本税理士連合会編『新説税理士法要説 改訂新版』(税務経理協会)
・日本税理士連合会編『素顔の税理士法(改訂版)』(税務経理協会)

以上

前のページへ

ホームページへ

Last Updated: 27/MAY/1997