「出向・転籍に関する税務」   税理士 中江博行

 企業経営が悪化すると,企業再編,リストラなど企業においては人的流動性が高まり,人員整理・人的資源の有効配置が図られる。この人員整理等の方法には,社内配置転換,退職勧奨,子会社・関連会社への出向・転籍などがある。
 出向とは、社員の身分上の地位を継続する雇用関係を保ちながら、他の会社(子会社,関連会社など)に比較的長期間勤務することをいう。これに対して、転籍とは、形式的には,通常なんらかの関連ある別の会社に再就職することで、雇用関係が一旦打ち切られ、一般の退職と同様な事務手続きをとる。
 ただし,転籍といっても,“出向”の過程を経て転籍に移るものや,将来復帰を前提にした“転籍”もあり,会社の事情により,その内容も相違し,出向・転籍の区別が曖昧になっていることも少なくない。しかしいずれにしても,社員にとっては企業内の人事異動とは異なり,労働環境の変化は避けられない。このため,前もって会社と,勤務形態、賃金、退職金、社会保険,福利厚生制度等についてあらかじめ取り決めが行われる。通常,出向元,転籍元による賃金の補填や退職金の負担が問題とされ,それぞれの会社は,税務上の処理について検討しておかなければならない。

T.出向に伴う税務上の問題
 出向は、出向元法人(出向者を出向させる法人)に雇用契約上の身分を残しつつ、実際の勤務は出向先法人(出向元法人から出向者を受け入れる法人)で行ない,当然,指揮監督も出向先から受けることになる。そのため、出向元及び出向先の双方において税務問題が生じる。
1.給与負担金
 出向において税務上しばしば問題となるのは,出向者の給与(報酬を含む)を,出向元法人と出向先法人がどのように負担するかである。出向者の給与を,出向先法人が直接出向者に支給する場合(直接負担),出向先法人が出向者の給与を出向元法人に支出し,出向元法人が出向者に支給する場合(間接負担)と,出向先法人と出向元法人がそれぞれ別個に支給する場合(両者負担)がある。
イ 直接負担
 出向者が勤務するのは出向先法人であるから,出向先法人が出向者の給与を負担するのは当然で,直接,出向先法人が出向者に給与を支払っている限りは,通常の給与の例による。すなわち出向先法人で役員であれば,過大役員報酬等の損金不算入の規定(法法34)や役員賞与等の損金不算入の規定(法法35)の適用を受けることになる。
ロ 間接負担
 出向者は出向元法人に籍を置いていることから,出向元法人がその給与を支払い,出向先法人においては,負担すべき給与に相当する金額(給与負担金という)を出向元法人に支出する。一般的には、この方法がよくとられる。
 出向先が支出する給与負担金は,たとえ負担金,経営指導料の名目であっても,出向者の労務等の対価であることには変わらないことから,給与として取り扱うこととされている(法基通9-2-33)。
             給与負担金
             
      出向元             出向先
       法人              法人

     
       給与
              出向者

 出向者が出向法人の役員になっている場合には,直接負担と同様に損金不算入の問題が生ずる。そこで給与負担金が定期の給与(報酬)になるのか臨時の給与(賞与)に該当するかは税務上重要で,その区分を明らかにしておかなければならない。
 出向先法人が給与負担金を支払う場合に,出向元法人が出向者に給与を支払う都度,その給与の支給額の範囲内で,出向元法人に支払うのであれば,給与と給与負担金がヒモつきとなり,報酬,給与の区分は格別,問題とならない。
 ところが,出向先法人の支払う給与負担金を,出向元法人が出向者に対して支給する年間の給料と賞与の総額を毎月平準化して一定額としている場合には,出向先法人は,毎月定額を負担しているので役員の場合に報酬だと割り切れるかはいささか問題である。
 その給与負担金の計算の基礎となる出向元法人の支給する給与が賞与を含んだものとして支給されてるならば,たとえ定期的に定額で負担するとしても,そこには賞与が含まれている考えざるを得ない。そこで,給与負担金のうち,出向元法人がその計算の基礎とした期間内に出向者に実際に支給した定期の給与の額に達するまでの金額は報酬とし,それを超える部分の金額を賞与にかかる負担金としている(法基通9-2-34)。
 例えば,出向元法人が出向者に年額1,200万円(給与月額80万円とし,賞与を年2回それぞれ120万円支給)を支給し,出向先法人は出向元法人に負担金として毎月100万円を負担していたとする。この場合には,出向先法人の負担額100万円のうち80万円は報酬となるが,残額20万円は,年2回の賞与にプールされたと取り扱われ,賞与として損金不算入の規定の適用を受けることになる。
 すなわち,出向先法人から出向元法人に対する給与負担金の支出が定期的であればすべて報酬となるわけではなく,逆に定期的でなくても,そのことのみから直ちに賞与となるわけではない。
 出向者に実際に支給される給与の額と給与負担金が同額とは限らない。出向先法人の給与負担額が出向元法人の支給する定期の給与に満たない場合もある。例えば,出向先法人の給与ベースが低く,給与負担金が年間支給額に満たず,毎月60万円負担していたとすると,給与月額80万円の範囲内となり,60万円の全額が報酬となる。ただし,出向元法人は,当初の支給年額を出向者に支給することから,出向先法人はその負担をしなかったことについて合理的な理由の有無が問題となる。格別理由もなく負担しなかったときは,出向元法人が出向先法人に対して寄附金を支出したと認定される余地が残る。定年前の押込出向のように出向者の能力に比し出向元法人の給与が高額である場合などは合理的な理由があると考えられるが,いずれにしても出向先法人は,その合理的な理由を明らかにしておくことが必要であろう。
 逆に,出向先法人が出向元法人に支出する給与負担金の額が出向者の給与の額を超えている場合はどのように考えたら良いのであろうか。この点については,「出向先法人が給与負担金として支出した金額が出向元法人が当該出向者に支給する給与の額を超える場合のその超える部分の金額については、出向先法人にとつて給与負担金としての性格はないことに留意する」とされている(法基通9-2-34(注))。
 前記の例で,給与の年間支給額1,200万円に対して,出向先法人が1,400万円を出向元法人に支払ったとすると,1,200万円を超える200万円は,出向先法人にとってもはや給与負担金としての性格はない。そうすると,この200万円部分は出向先法人にとってどのような性格を持つかが問題となる。給与負担額は,実費精算を原則とするが,その超過部分が経営指導料等の経済合理性が立証できれば損金として認められるが,単なる出向元法人への贈与となれば寄附金課税を受けることになる。                       

ハ 両者負担
 出向先法人が出向者に給与を支給する場合に,出向先法人における給与ベースが出向元法人における給与ベースよりも低いようなときには,出向元法人が較差補てんのために出向者に給与を支払うことがある。このような較差補てん金は,出向元法人が出向者に直接支払ったものであろうと,出向先法人を経由して支払ったものであろうと,原則として,その負担をした出向元法人の損金の額に算入される(法基通9-2-35)。
              
      出向元             出向先
       法人              法人

    較差                 給与
    補てん金
              出向者

 これは,出向は出向先法人ばかりではなく出向元法人にもメリットがあることから,出向元法人が負担する給与の較差の補てん金は,出向を円滑に行うために不可欠な事業上の経費であり,単なる贈与ではないとして取り扱われている。
 また,次のものも較差補てんとして取り扱われる。
 @ 出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため,出向元法人が出向者に対して支給する賞与の額
 A 出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額

2.退職給与負担金
 出向者に係る退職給与の負担の仕方にも種々の方法がある。
イ 出向者の退職給与負担
 退職給与は、給料の後払い的性格、在職中の功労に対する報酬や退職後の生活補償にあてるなどの側面を持っている。このような退職給与の性質からすると、出向期間中に出向者から労務の提供を受けるのは出向先法人であることから、出向者の出向期間に係る給料、賞与ばかりでなく、その出向者に対する退職給与も出向先法人が負担するのが原則である。

社員
 


 


 


 

 図
 
   入社        出向     復帰(B)   退社(A)

               この期間は出向先が負担が原則

 しかし,出向期間中の出向者の退職給与は、出向先法人が何が何でも負担しなければならないと考えるのも,現在の退職金制度の現状から適当ではない。そこで,退職給与の全部又は一部を出向先法人が負担しない場合でも、次のような相当な理由があれば、負担しないことも税務上認められる(法基通9-2-38)。
 *親会社が、経営危機に瀕している関係会社等に強制的に使用人を出向させ、業務の監督等をさせている場合。
 *新技術の習得のために出向させる場合のように、専ら出向元法人の利益のために出向させていることが明らかな場合。
 *出向期間が比較的短期間であるため、退職給与まで出向先法人に負担させることが適当でない場合。
 ロ 退職給与負担の方法
 出向先法人が、出向者の出向期間中の退職給与を負担する場合としては、次のような方法がある。
 @出向元法人を退職するときに支出する。(図−A) 
 A出向元法人に復帰するときに支出する。(図−B)
 B定期的に退職給与の負担額を出向元法人に支出する。
 @とAの場合には,出向先法人が支出する退職給与の額が合理的に算定されたものであれば,出向先法人の支出時の損金の額に算入される。Bの場合は,出向先法人に勤務している期間に,出向元法人に退職給与負担金を支出していることから支出時に損金算入が認められるかどうかが問題となる。しかし,出向先法人が、出向者に対して出向元法人が支給する退職給与に充てるため、あらかじめ定めた負担区分に基づき、一定の金額を毎月、あるいは毎決算期ごとのように定期的に出向元法人に支出している場合には、退職給与の額として合理的な負担額であれば、支出したときの損金の額に算入される(法基通9-2-36)。 また、これら定期的に支出する負担額については、その出向者が、出向先法人において役員となっている場合であっても、支出する事業年度の損金となる。
ハ 出向期間中に出向元法人を退職したとき
 出向者が、出向先法人に在職のまま、出向元法人を退職した場合に出向先法人が、その退職した出向者に対して出向元法人が支給する退職給与の額のうち、その出向期間に対応する負担額を出向元法人に支出したときには、その支出した金額は、たとえその出向者が、出向先法人で役員又は使用人として引き続き勤務しているときであっても、その支出した事業年度の損金となる(法基通9-2-37)。

U 転籍に伴う税務上の問題
1.転籍者の給与
 形式上は、転籍者は、通常の退職と同じように転籍前の法人を退職し、新たに転籍後の法人に就職する。しかし、転籍は、転職と異なり、一般的には関係会社間の身分異動の側面を持つことから、通常の退職、転職と同一に扱うことは、実態に即さない場合もあり,出向と同じような問題を生ずる。
 原則的には、転籍前、転籍後の法人に給与較差があったとしても、給与の較差補てんは認められず,転籍前法人が転籍後の法人の費用を肩代わりしているものとして転籍後法人に対する寄附金となる。
 しかし、転籍が実質的に出向と同様であったり、あるいはリストラによる転籍のように理由が専ら転籍前の法人の事情に基づくもので、転籍者に提示した転籍条件に基づいた負担であれば、この転籍者に対して転籍前の法人が支給した給与の較差補填金は、転籍後の法人に対する寄附金ではなく、転籍前法人の転籍者に対する給与として損金の額に算入される。

(2)転籍者の退職給与
 転籍特有の問題として,退職給与の負担が問題とされる。
 退職給与については、転籍前法人は、転籍の時点で、転籍者に退職給与を支給し、転籍後の法人で新たな勤続年数がスタートするのが原則であるが,転籍時には退職給与の支給はせずに、転籍後に在職年数を通算して退職給与を支給することがある。この場合に、転籍前法人及び転籍後法人が支給する退職給与の負担額が、合理的に定められたものならば、通常それぞれの法人における退職給与として損金となる。たとえそれが相手方の法人を経て間接的に支給したものであっても同様である。しかし、転籍前の法人及び転籍後の法人が支給した退職給与が、これらの法人の他の使用人に対する退職給与の支給状況、それぞれの法人における在職期間等から見て明らかに相手方である法人の支給すべき退職給与の全部又は一部を負担したと認められた場合には、相手方に対して寄附金を支出したものとみなされる(法基通9-2-40)。
                            2003.4.9