この原稿は、(財)日本税務研究センター刊「税研」66号(H.8.3)62頁に載せたものです。一部図表等は入っていません。興味がおわりの方は、「税研」の方をお読み下さい。


税理士の専門家責任     知新会 中江 博行


1、はじめに


 税理士が民事責任を問われた事例は、税理士職業賠償保険の事故例や訴訟例から列挙にいとまがないほど紹介され、特にここ10年ぐらいの間に急増している。 昨年報道(注1)された税理士に対する2億8千万円の損害賠償を認めた判決は、賠償金額の大きさ驚くとともに、税理士の行ったどのような行為がその依頼者に損害を与えたのかを知りたいと考えた税理士は決して少なくなかったと思う。 


 そこで、税理士業務をおこなううえで必ずついてくる問題であり常に意識している税理士の専門家責任について、”conscious”で取り上げることとする。


 専門家の責任については、従来より総論的あるいは医師、弁護士や建築士など一部各論的な検討はなされてきてはいるが、税理士の専門家責任の研究についてはそれほど多くはない(注2)。


 ここでは、前記訴訟事例とともに税理士の専門家責任の法理とは何か?その対象となるものは税理士業務に限定されるのか?税理士の専門家としての民事上の責任は無制限に課せられるか?について思いつくままに述べてみたい。


2、専門家(Profession)の責任


(1)専門家(Profession)とは、特殊職業者あるいは資格職業者など特殊領域の高度な情報を提供することを業とするもので、専門家の責任とは、そうした者が依頼者及び第三者に負う責任をいうとされている(注3)。


 専門家は、その依頼者の求めに応じ、一般人と異なる特殊な専門知識・技能を提供することによって報酬を得ている。そして有償で業務を処理するものに期待される高度な注意義務と依頼者や社会から受けている信頼・信任に答える忠実義務を負っていると考えられている(注4)。


 「高度注意義務」で、専門家は依頼者に対して自己の専門領域の仕事の最低基準を満たすことを保証していると解される。具体的には、資格の種類、その業務内容に関する法令の定め、委託された業務内容その他の事情により異なる(注5)。また、アメリカ法での不法行為におけるRestatement(of the Law)では、その職業人のなかで認められている者が通常有している技能と知識を用いることが専門家に求められている(注6)。


 「忠実義務」とは、依頼者から信頼されて裁量権の行使を委ねられた専門家が、依頼者の利益と社会から与えられた信頼に応える義務で、基本的には善管注意義務と同じであるが、「高度注意義務」より広い責任が追求されうる。そして、「忠実義務」は、専門家の責任の範囲を無限に広げてゆく可能性を持っている。


 「忠実義務」は、一般人も同様に義務として生じるが、専門家はその特殊な分野について、一般人以上の情報収集能力を持ち、資格者であれば無資格者との差別化により優位な立場を与えられていることから、忠実にその信頼に応えなければならない。また「忠実義務」は、専門家に期待されうる最低基準で良いという訳ではなく、個々の事案により、相対的な関係により異なった「忠実義務」が課せられ、その範囲を一律限定することはできない。この「忠実義務」は、専門家の判断が適正であることや情報開示、説明義務、指導助言など個々の事情によって広範囲な責任となって現れてくる。


 専門家の責任は、専門家によって受けた依頼者の損害救済のためにますます広く要求されてきている。確かに、「取引社会において『専門性』は境界指標ではなく、程度を示すパラメーター以上のものではない。歴史的経緯からすれば、かって所謂『専門家』が、自らの特権と聖域を要求し、裁量権を理由にいかなる事態にも無答責ですませようとしてきたのに対して、その様な特別扱いはしないのだということを明確にすべきことこそ重要であると思われる。(注7)」といわれたように、専門家の無責任な行為はこれを許さないという責任論として当然の流れであった。そしてこの責任の範囲を明確にすることは、責任を回避することではなく、責任の履行を完全なものとし、損害を与えないために必要なことであろう。しかし、責任の範囲は、契約内容の明確化、依頼者の協力度合いやインフォームド・コンセント(informed consent)などで制限され得ると考える。


 このような専門家の責任が充たされないときに、損害賠償請求権として民事責任が問われることになる。


3、専門家の民事責任の法的構成


(1)損害賠償請求権の法的性質としては、契約責任(債務不履行責任)と不法行為責任とに分けられる。この責任構成のいずれをとるかによって、要件、効果が異なる。不法行為責任においては依頼者たる債権者が資格職業者の過失を証明しなければならないのに対し、契約責任構成をとる債務不履行責任においては専門家自らに帰責事由がなかったことの証明責任を負担しなければならないと解され、またこれら請求権の消滅時効は、債務不履行では10年(民法167条1項)であり、不法行為であれば原則3年(民法724条)となる。


 医師に対する医療過誤訴訟では、不法行為訴訟によるものが格段に多く、その理由としては、損害賠償請求としては不法行為責任構成でも契約責任構成でもあまり差異はなく、裁判官も証明責任等に関しあまり硬直な態度をとらないことや、現行民法典では無形のなす債務の不完全履行責任の不備をあげている(注8)。


 アメリカ法においても専門家の責任追及は、不法行為責任によることが多く、その理由の一つとして、「契約『違反』であると評価するためには、その契約の目的趣旨に照らして、なすべきとされた行為に違反したことが必要とされるが、多くの場合、専門家は、彼の熟練および判断力を最大限に用いることだけを引き受けるのであり、特定の成果を約束するものではないから、過失によって、そうすることに失敗した場合には不法行為が成立するのであって、契約違反とは評価できない。(注9)」があげられている。


 一方わが国の弁護士に対する民事責任が問われる事件については、債務不履行訴訟によるものが多数を占めている。これは、契約内容が比較的明白であると指摘されている(注10)。


(2)資格職業者に対して、民事責任を問う訴訟例は、昭和30年代後半より増加傾向にあり、医師による医療過誤訴訟事件を除いては、弁護士と司法書士に対するものが多く、税理士に対する10年以前のものは少ない(注11)。


 この理由は、@訴訟にはまた別の専門家の力を必要とするなどで、訴訟に訴えることを躊躇すること、A責任を追及する証明が困難であること、B責任保険などで補填されるとか損害が明らかででなく軽微なこと(訴訟に至る前に当事者間で解決しやすい)などが考えられている(注12)。


4、税理士の民事責任


(1)資格職業者の委嘱を受ける契約が委任(民法643条)ないし準委任(民法656条)、請負(民法632条以下)、雇用(民法623条以下)であるか、あるいはそれらの混合契約であるかにいては、仕事の内容により一律これを決定することは困難であるとされている(注13)。


 税理士業務については、委嘱者である納税者からから委任を受けて、その求めに応じて、委嘱者のために事務を処理する業務委嘱契約に基づいて職務をおこなうことから「委任」「準委任」であると考えられている(注14)。しかし、税理士の業務にも仕事の完成のみを目的とした”請負契約”もあり得ないことではないと思われる(注15)。


 税理士の場合、通常、税理士とその依頼者との民事責任については債務不履行責任として論じ、第三者に対して与えた損害については不法行為責任となると考えられている(注16)。しかし税理士と依頼者との契約には、申告書の作成という明確なものばかりでなく、将来予想も含めたコンサルタント業務契約など広範囲に渡ることもあることからすると、契約内容が不明瞭なときには依頼者との不法行為責任として問われることも考えられよう。


 通常、税理士と依頼者との関係を委任ないし準委任契約としてとらえ、税理士は専門家の責任である「高度注意義務」や「忠実義務」に違反した場合には、委任の本旨に則していなかったとしてとして、あるいは善管注意義務に違反したとして債務不履行による損害賠償請求を受けることになる。


(2)税理士に対する損害賠償の請求は、過去には、公にされたものとしては決して多くはなかったが、最近では、税理士によって損害を与えられたとして請求される事件が多くなっている。この理由は、@不況の長期化による経済情勢の悪化、A租税負担に対すする認識の高まりとともに各種メデアによる納税者(依頼者)の税務知識が豊富になったこと、B比較が容易で、その損害額が明確に認識し易いこと、C被害者救済の道を広げるため責任範囲が拡大しているためだと考えられる。このような情勢は今後ますます顕著になり、税理士に対する損害賠償の請求は多くなるものと思われる。


(3)税理士の不法行為責任が問われ事例は多くはない。第三者に対するものでは、税理士の作成した内容虚偽の確定申告書の記載を真実と信じて、保障、担保の提供をした者が損害を蒙ったとして、税理士に対する損害賠償の請求を認めた事例(仙台高裁昭和63年2月26日判決、判例時報1269号86頁)がある。依頼者に対するもので不法行為責任が問われたものとしては、税理士の作成した所得税の確定申告書に右税理士の過誤による違算により過少申告加算税等の納付を余儀なくされたとして損害賠償を認めた事例(東京地裁平成4年7月31日判決、判例時報1463号88頁)がある。しかし依頼者に対する税理士の民事責任としては、前述のように債務不履行責任によるものが圧倒的に多い。


(4)税理士が負う民事責任の範囲はどこまでであろうか。税理士業務、付随業務はもとよりコンサルタントや保険代理業務など広範囲に及ぶと考えられる。なぜならば、税理士は、専門家として、依頼者から与えられた期待や信頼に応えるべく、通常人より高度の注意義務を負うべきこととされているからである。


 これは、税理士と依頼者との委任契約の内容は、依頼者が税理士の高度の知識及び経験を信頼し、税理士法2条に定める租税に関する事務処理のほか依頼会社の経営に関する相談に応じ、その参考資料を作成することなど広範にわたるとした最高裁判所の判断(最高判昭和58・9・20、判例時報1243号112頁)からも伺える。


(5)税理士の求められる専門家としての能力を保証する「高度注意義務」は、税理士という専門家の個別の経験や訓練を考慮に入れることなく、その職業に属するすべての専門家に適用される最低基準を意味すると考えられる。資格の保証する能力は、一般人の能力との相対的なところで成り立っていることから一般人のレベルが上がると、専門家に要求される最低基準もアップされなければならない。


 また税理士に要求される「忠実義務」は、個々の事案や、相対的な関係により異なる通常の注意義務が課される。通常の範囲は事例の蓄積に待つしかないが、通常要求される以上の義務が課され場合も考えられる。例えば、特殊な分野の専門知識を有していると表示したり、報酬が高額である場合には責任の範囲は加重されると考えられる。それは、契約において当事者間で了解が得られたと考えられるためである。


4、2億8千万円の損害賠償事件(注17)


 これは、税理士が専門家としての信頼関係を裏切ったとして、裁判所は税理士の善管注意義務違反を認めた。


(1)事実の概要


イ、被相続人A(平成2年11月16日死亡)の相続人である原告X1、X2、X3(それぞれAの妻と子ら、Xらという)は、平成2年12月、長年Aらの税務事務を委任されていた被告YにA死亡に伴う相続手続を依頼し、あわせて相続財産の大部分が不動産で相続税の納付を金銭ですることは困難であり物納によることが最良であると考え物納申請手続きを委任した。


 Yは、遺産分割協議書を作成し同書にXらの署名押印を得て、以下の表を内容とした相続税申告書及び物納ではなく延納申請書を作成し所轄税務署に提出した。


 その後、Xらは、税務署担当官の調査を受けたことから、財産評価通達に反する評価の誤り、延納申請手続きをしたことによりもはや物納できないことなどを知るに及びYに対して相続税の申告に係る委任契約の解除をした後、訴外B税理士に相続税の修正申告手続と、右申告に係る物納申請手続きを依頼した。


 相続税当初申告に係る税額表(表1)


相続人

課税価格

納付税額

現金納付額

延納税額

X1

15

0(9.4)

  

  

X2

 9.7

6

0.6

5.4

X3

 6.8

4.1

0.4

3.7

合計

 31.5

10.1

1 A

9.1

単位は億円。金額は簡略化かしてある。以下同じ。


  ( )は、配偶者の税額軽減前


相続税修正申告に係る税額表(表2)


相続
人 

修正後
納付税額

修正増額分
納付税額 

現金
納付額

物納
税額

X1 

0.1  

  0.1

0.1

  

X2

  7.2  

  1.2

0.3

0.9

X3

 4.9  

  0.8  

0  

0.8

合計

 12.2 @

  2.1

 0.4

1.7 B

 Xらは、Yに物納による手続を依頼したのに、Yは延納の手続きをしたためXらは余分な土地を売却せざるを得なくなったとして、損害賠償として、売却を余儀なくされた土地と相続税額の差額、納付した延納利子税、過少申告加算税及び既に支払った報酬に相当する金員の支払を求めた。


(2)判旨


イ、Xらは、Yに対し、本件相続税の申告を依頼するに際し、あわせて物納の申請手続きを依頼したと認定し、Yが延納の申請手続きをしたことは、委任の本旨に従がったものではなく、善良な管理者の注意で委任事務を処理しなかった。


ロ、Yのした延納申請によって、売却を余儀なくされた土地の価額が物納税額に相当する土地の路線価額を超える場合のその差額分の損害と、延納利子税等の損害額の合計2億8千万円の損害賠償を認めた。


ハ、委任事務処理の費用は、受認者が委任事務を委任の本旨に従い善良な管理者の注意を持って処理する場合に取得しうるが、受認者であるYは、Xらの依頼の趣旨に反し、その信頼を悉く踏みにじった。その不履行の内容、程度に照らせば、委任事務を全く履行していないに等しく、既に支払われた交付金は、本件委任事務処理の費用として評価するに値せず返還すべきである。


(3)考察


イ、評価について


 今日のような土地価額の大幅な下落期においては、評価通達による土地等の評価が、相続税法22条にいう「時価」である客観的交換価値を正しく反映しているかは十分検討されなければならない。


 本事件の場合には、平成3年分までは前年7月1日時点を評価時点として地価公示価格と同水準の価格の70%程度とされていたこと、相続開始時は平成2年後半の地価のピーク時であることやその後の実際の売買価額からすると修正後の評価が、客観的交換価値を超えていたとはいえない。


  【図1を入れる】 地価変動のグラフ


住宅地の地価と名目国民総生産(GNP)の伸び


           (昭和58年を100とした指数) 読売平成5年3月26日  


 通常、土地の価額を決定する場合の地積は、実際の地積によるとされているが(評通8)、すべて実測によることとされているわけではなく、原則登記簿上の地積によっている。その後売買契約が締結されたことにより、実測が行われた場合には、修正申告あるいは更正の請求によって適正な課税の実現が図られる。正しい地積といい得るためには、原則、地積更正手続きを経るべきであろう。


ロ、相続税の物納


図1のように、平成2年は地価のピーク期を迎え、それ以降急勾配で下落した。平成3年以降、東京局の物納件数は急激に増加している(表3)。丁度そのような時期の事件であったのであろう。


 それ以前では、物納は今日ほど一般的ではなかった。それは収納(物納許可)の困難さ、多大な手数を要することや物納より一般の売却の方が有利であった。表3に示す通り、平成2年度までは、物納を申請したとしても4分の3は収納以前に物納を取下げている。その頃は、税理士の倫理的責任については問題にはなるかも知れないが(注18)、ひとまず物納を申請し、その間に物納物件を売却することによって、納税者は結果的に有利な選択をしたという実感を得たのである。当時は、納税は現金納付が原則であった。


 今後は、この事件の示すように、金銭納付が困難な理由があれば(注19)、原則、物納で処理せざるを得ないであろう。何故ならこのような地価下落期においては税額負担のある売却より、高い評価で収納される物納による方が有利になるからである。


 東京局の物納件数(注20)(表3)


 年度

申請件数 

>取下げ/処理件数

63

303件

73%

 407

77%

 2

 779

53%

2,058

52%

6,408

31%

ハ、裁判所は、物納申請すべきであったのに延納申請したことにより与えた損害の額を次のように算出した。(@ABは、表1、表2の数字)


 A.物納されうる金額


   相続税の納付 − 現金納付額 − 修正分物 = 12.2-1-1.7=9.5億円


総額(修正後)@   (当初申告)A 納額B


B.現金納付可能額


    延納申請時まで売却 現金納付額


    の決まっていたもの − 当初申告) = 4-1 = 3億円


など手持ち現金と同 A


    視額(4億円と認定)


 C.売却せざるをえなかった土地価額


     A−B=9.5-3=6.5億円


 D.余剰金の額(売却額が納税額より多い金額)


   売却せざるを得なかった − C=7-6.5=0.5億円


   土地の手取り額(7億円


 E.損害認定額


  売却を余儀なくされた +B−A−D=8.9+3-9.5-0.5=1.9億円


  土地の路線価による価額         (この金額の賠償を命じた)


 これらのうち売却せざるを得なかったとされた土地は、平成4年中に売却されたもので(注21)、譲渡所得税等控除後の手取額では、路線価により評価した価額以下となっているが、売却価額(譲渡代金)は大半路線価によるものを上回り、平成3年中に売却した土地は、措置法39条(相続財産にかかる譲渡所得の課税の特例)の適用を受けない場合でも路線価による価額を手取額は上回っている。


 結果としては、現在売却すれば、もっと損害は拡大したであろうが、損害額の認定としてこのような方法が適当であるか疑問である。


ニ、相続人間の遺産分割協議では、当然税理士は税金の面からのアドバイスはしなければならないが、それ以上でもそれ以下でもあってはならない。遺産分割は当事者自ら決定するべきことについては多言を要しないが、租税面はそれを行うための一つのメルクマールとはなっても全てではない。


ホ、税理士は法の認められる範囲内で依頼者の納税額が少なくなるように努めなければならない責任を負っている。しかし、その一時点だけで判断すべきものではなく、考えうる将来にわたる納税額や諸事情も考慮したところで判断をし、依頼者に説明すべきである。すなわち、税理士は依頼者にとって、もっとも節税となるように努めその責任を放棄することは出来ない(注22)。


 専門家に認められた大幅な裁量権によって、節税を計ったことが結果として増差額が出てしまったような場合に依頼者に損害を与えたかどうかは、結果として税額が増えたことの原因が税理士の通常の注意義務を果たしていないことに起因したものでなければならない。


 また、逆に税理士の専門家としての信念に基づいて行った法の解釈が、通達で取扱われた方法と異なる取扱いをしたために納税額が増加した場合に、通達に相違した取扱いによる損害賠償の責任を負うのかが問題となる。あるいは、二つの異なった解釈があった場合に、税理士がとった解釈が納税額が多くなった場合はどうか。私は、その税理士のした法の解釈に明らかな間違いがない限りこれこそ裁量権の範囲であると考えている。このような裁量権が有ればこそ納税額を少なくするとの期待に答え得るのである。しかし裁量権を行使する場合であっても、その内容を依頼人に十分説明しなかった場合には、説明義務違反の問われる余地は残る。


5、おわりに 


 税理士は、前記裁判例の判決を真摯に受けとめ、専門家にふさわしい見識、技量を持たなければならない。しかしその責任の重さ故に業務活動の萎縮、停滞をきたすことのないよう税理士の民事責任についての研究が進められることを期待する。


 税理士として負わなければならない責任の範囲を予め明らかにすることは、不測の損害の発生を未然に防止することにもなる。また、依頼者の協力が十分でない場合、申告期限ぎりぎりで時間の余裕がない場合や無償の場合についての過失相殺の理論も確立する必要があるのでは無かろうか。


 最後に法律上の責任問題とは離れるが、税理士職業損害賠償責任保険も併せて今後充実されることを期待している。


以上


(注1)読売平成7年12月 日


(注2)税理士に対する研究としては、首藤重幸「税理士の責任−民事上・行政上・刑事上−」日税研論集24巻121頁、松沢智「税理士の専門家責任」税務弘報43巻8号6頁、同著『税理士の職務と責任』115頁以下、現代民事責任法研究会「専門職業人の誤情報提供と損害賠償責任」比較法雑誌23巻4号17頁、加藤義幸「税理士の民事責任」税法学534号31頁、山田一陽・根本正樹編『専門家責任の理論と実際(法律・会計専門家の責任と保険』241頁他がある。


(注3)川井健『専門家の責任』4頁


(注4)能見善久「専門家の責任(上)」専門家の民事責任(6)、NBL544号52頁


(注5)現代民事責任法研究会 前掲書(注2)19頁


(注6)弥生真生「アメリカにおける専門家責任(その1)」専門家の民事責任(2)、NBL539号26頁


(注7)河上正二「『専門家の責任』と契約理論」法律時報67巻2号6頁


(注8)下村定「専門家の民事責任の法的構成」別冊NBL28号101頁


(注9)弥生真生 前掲著(注6) 25頁


(注10)下村定「専門家の民事責任の法的構成と証明(上)(下)」専門家の民事責任(8)(9)NBL546号37頁、547号35頁


(注11)鎌田薫 「わが国における専門家責任の実情」別別冊NBL28号63頁


(注12)小林秀之「弁護士の専門家責任(その1)」専門家の民事責任(4)、NBL541号34頁


(注13)鎌田薫 前掲著(注11) 72頁


(注14)松沢智 前掲書(注2)税務弘報43巻8号6頁。税理士の顧問契約の解除が任意にできるかで争われた、最高判昭58・9・20(判例時報1100号55頁)では、「税理士顧問契約は、被上告会社が、税理士である上告人の高度の知識及び経験を信頼し、上告人に対し、税理士法2条に定める租税に関する事務処理のほか、被上告会社の経営に関する相談に応じ、その参考資料を作成すること等の事務処理の委託を目的として締結されたというのであるから、全体として一個の委任契約であるということができる。」とした判断を示した。


(注15)ただし、印紙税法上では、契約書上「請負」、「委任」かによって課税文書(第2号文書)、非課税文書となるのどの相違がある。


(注16)首藤重幸 前掲著(注2)日税研論集24巻121頁


(注17)東京地方裁判所民事第30部、平成7年11月27日判決(平成5年ワ第2494号損害賠償請求事件)


(注18)Wolfman & Holden,ETHICAL PROBLEMS IN FEDERAL TAX PRACTICE,2税理士の責務(Tax lawyer's Duties)として倫理責任(Ethics)の問題について触れられている。税理士の倫理上の問題を指摘したものに、林仲宣「実務に役立つ税理士業務関連判決」速報税理6・7・1、17頁があるが、倫理上の問題を研究されたものは少ない。


(注19)「金銭で納付する」とは、即納の場合はもとより、延納延納できる場合の可能性のある場合の両者をいうとされている(『相続税法基本通達逐条解説』平成5年大蔵財務協会295頁)。当時X2の経常的所得は2千万円を超えているが、金銭納付することが困難だとし、延納は考慮はされていない。


(注20)「週刊税務通信」2309号3頁


(注21)手取額の計算が合わないものがある。


(注22)東京高裁平成7年6月19日判決(判例時報1540号48頁)では、「税理士法上の義務として、法令に適合した適切な申告をなすべきことは当然であるが、法令の許容する範囲内で依頼者の利益を図る義務があるというべきである。」としている。また、納付についての指導、助言は単なるサービスではなく付随業務としてその懈怠については債務不履行責任を負うとしている。


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Last Updated: 14/JUL/96