これは、税経通信(税務経理協会)56巻2号9頁(2001年1月臨時増刊号)に掲載したものです。税経通信をお読み下さい。

税効果会計の基本的仕組み     税経通信2001年1月臨時増刊号

                     2000.11.28  税理士 中江博行

 

はじめに

 わが国においては、国際会計基準として一般化されている税効果会計は、公開会社では1999年4月1日以後開始事業年度から強制適用された。未公開会社についても企業会計審議会の「税効果に係る会計基準の設定に関する意見書」(1998年10月)において税効果会計の積極的な導入が求められた。

 しかし、未公開会社においては、税効果会計を導入している法人はそれほど多くない。その理由は、第一に、中小法人の多くが、企業会計、商法会計と租税会計という“会計の三重構造”の中でも、特に、課税所得の算定のための租税会計をもとにしている場合が少くないこと、第二に欠損法人が多く、このような法人の将来の課税所得発生の予測が困難で税効果を認識できるのは例外的な場合であること(注1)、そして、第三の理由としては、損益計算書で税引前当期純利益から控除する税金費用のうち納付税額の他にキャシュフローに関係しない税効果調整額などの表示は、従来の財務諸表と相違するため理解が難しいこと等があげられる。

 しかし中小法人の財務内容についての開示が、広く求められているところであり、税引前当期利益と法人税等の法定実行税率との相違や使途秘匿金等がある場合の課税額についての説明などの要請が考えられることから、税効果会計が中小法人については例外であるという訳にはいかない。

 

 そこで、本稿では、主として中小法人が税効果会計を導入する場合を念頭におき、個別財務諸表の税効果会計の概略・基本的仕組みについて瞥見する。

 

T わが国の税効果会計の導入

 米国における“法人税等の会計(Accounting for Income Taxes)”としての税効果会計(Tax Effect Accounting)の体系的基準は、1967年にAPB(会計原則審議会)意見書第11号(Accounting for Income Taxes、APB Opinion 11、 DEC 1967)で公表された。APB意見書第11号は、財務会計と税法との期間帰属差異に対して繰延法に基づき税効果会計を適用することを求めた。

 わが国の“法人税等の会計”は、従来、納税額方式により、納付すべき税額を「法人税等」として損益計算書に、「未払法人税等」として貸借対照表に表示されていた。1976年には、わが国でも証券取引法に基づく連結財務諸表を作成する場合に税効果会計の選択が認められた。税効果会計が、強制されなかった理由は、未だ「会計慣行として成熟していない」とされ、かつ、明確な税効果会計の基準を欠いたまま、一部の連結財務諸表のみ適用されていたことから、企業財務内容(財政状態や経営成績)の開示に十分な機能を果た

すことができないという批判がなされていた(注2)。

 近時、企業のグローバル化や国境を越えた資金調達が進み、欧米の企業と同様な財務内容の開示が求められ、わが国企業においても、国際会計基準に基づいた会計方式が強く求められるようにになった。

 このような状況の中で、1997年には、企業会計審議会が「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」を発表し、連結財務諸表に税効果会計を全面的に導入することを明らかにするとともに、個別財務諸表への税効果会計の適用について検討の必要性が指摘された。ここに税効果会計へ本格的な対応が図られた。

 1998年10月に公表された企業会計審議会による「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書(以下、「意見書」という)」では、連結財務諸表のほか、個別財務諸表、中間連結財務諸表及び中間財務諸表を対象とした税効果会計に係る包括的な基準が示された。

 そして、大蔵省は1998年12月に、税効果会計の適用について、財務諸表等規則、連結財務諸表規則および中間財務諸表等規則の改正を公布し、税効果会計の適用を義務付けるとともに、税効果会計に関連する項目の貸借対照表および損益計算書における記載方法を定めた。法務省も、同時期に計算書類規則を改正し、税効果会計の適用に伴って生じる項目について、貸借対照表および損益計算書における記載方法を定め、これらの規則は、1999年4月1日から施行された。

 また、日本公認会計士協会は、会計制度委員会報告第10号で「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」で税効果会計における具体的な基準を発表した。

 

U 税効果会計の概要

 企業会計において“法人税等の会計”処理方法としては、現金主義、納税額方式と税効果会計がある。ここでいう「法人税等」とは、詳細は後述するが、所得金額を課税標準として算出される法人税、住民税および事業税をいい、財務会計では、法人税等は(税金)費用として処理される。

 現金主義とは、法人税等の納付時に会計処理(租税公課勘定などで処理)を行うもので、小法人では、この方式をとるものが多い。

 納税額方式は、わが国の法人税等の会計として従来から用いられてきた方法で、当期の要納付額を法人税等として計上する。すなわち納税義務の確定をもって費用とする。

 そして税効果会計とは、企業会計と税法との間の損益の帰属期間の相違による法人税等の影響額を、企業会計上で期間配分を行うことによって調整する会計である。

 

1.税効果会計の目的・理由

 意見書において、税効果会計を採用する目的として、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金の額(費用)を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続であるとしている(「税効果会計に係る会計基準」第一)。

 すなわち、法人税等の課税所得の計算においては企業会計上の利益の額が基礎となるが、企業会計と課税所得計算とはその目的を異にするため、収益又は費用(益金又は損金)の認識時点や、資産又は負債の額に相違が見られることが一般的である。

 このため、税効果会計を適用しない場合には、課税所得を基礎とした法人税等の額が費用として計上され、法人税等を控除する前の企業会計上の利益と課税所得との間に差異が生ずるときは、法人税等の額が法人税等を控除する前の当期純利益と期間的に対応しないことから、次のような問題の指摘がされている(注3)。

 @ 同一企業において期間損益を示す当期利益が異なり、最終的な業績判断が困難であること

 A 利益処分の対象となる未処分利益が異なること

 B 配当可能利益について各事業年度における株主間の不公平が生ずる虞があること

 C 有税処理を躊躇させる原因となりかねないこと

 D 企業間比較が不正確となること

 E 国際間比較が不可能であったこと

 

2.税効果会計の会計基準

  税効果会計の方法には、貸借対照表アプローチによる資産負債法(asset and liability method)と損益計算書アプローチによる繰延法(deferred method)がある。

 繰延法とは、企業会計と税務における期間帰属の相違に基づく差異(「期間差異」という)がある場合、その期間差異(timing differences)について、発生した年度の当該差異に対する税金負担額または税金軽減額を、損益計算書上の法人税等に減額または増額して調整するとともに、将来において差異が解消するまで、貸借対照表上、繰延税金資産または繰延税金負債として計上する方法で、差異発生年度の損益計算書に計上される税引前当期純利益と法人税等の対応関係を重視した考え方で、いわば損益法の見地に立つ。この方式では、期間差異発生年度の税引前当期純利益と法人税等との対応関係を適切に表示することが目的で、税引前当期純利益と対応しない部分の法人税等の金額が、将来の年度に繰り延べられたに過ぎないため、将来税率が変更になっても再計算はしない。

 一方、資産負債法とは、会計上の資産・負債の金額と税務上の資産・負債との間に差異(「一時差異」という)がある場合、将来、この差異が解消されたときに、税金負担額を減額または増額させる効果がある場合に、その差異の発生年度に、翌期以降に支払うまたは減額される税額を貸借対照表上、繰延税金負債、繰延税金資産として計上するとともに、損益計算書上の法人税等を減額又は増額して調整する方法で、貸借対照表に計上される繰延税金資産、繰延税金負債の貸借対照表能力を重視した考え方で、財産法の見地に立つ。この方式では、貸借対照表に計上される繰延税金は、将来の会計期間に対する影響に注目するため、差異が解消すると予想される期の税率を用いて計算し、将来において税率が変更された場合にはその都度再計算が行われる。

 近年、時価評価、オフバランス取引のオンバランス化などの財産評価を重視する会計処理が要求されるようになり、国際的にも貸借対照表が提供する情報の重要性が増大する傾向が顕著となっている。このため、税効果会計の会計処理方法としては資産負債法が主流となっている。実務指針においても、資産負債法によることを明らかにしている。

 表1 資産負債法と繰延法

       資産負債法      繰 延 法
損益計算書におけ
る特徴
 
一時差異の解消年度の税引前
当期利益と法人税等との合理 的な期間対応を重視
期間差異の発生年度の税引前
当期利益と法人税等との合理 的な期間対応を重視
貸借対照表における 特徴

 
繰延税金資産又は繰延税金負 債は、その資産性又は負債性(貸借対照表能力)を重視
 
繰延税金資産又は繰延税金負 債は、期間差異の解消年度ま で法人税等を繰り延べる経過 勘定
税率変更があった
場合の特徴
税率変更の都度再計算を行う
 
再計算は行わない
 

 出典 山本清次、今西浩之、蓮見知孝『税効果会計と税務アクション』ぎょうせい12頁所収(2000年)

 

3.税効果会計の仕組み

(1)企業会計と課税所得が異なる要因

  税効果会計とは、簡単には、税引前当期純利益と法人税等とを合理的に期間対応させるために、法人税等を適切に期間配分する会計処理をいうとされている。すなわち企業会計上の利益と法人税法上の課税所得とが相違し、将来解消される差異については、税効果会計が必要となる。

 企業会計と課税所得が異なる要因は、大きく分けて、(a)収益や費用の概念は同一であるが損益の帰属期間の認識が違うものと、(b)収益や費用の概念自体に違いがあるものとが考えられる(注4)。

(2)永久差異と一時差異

 前記(b)には、税務上損金とならない交際費、寄附金、役員賞与等および税務上益金とならない受取配当金等があり、これらは、その違いが永久に解消されないことから「永久差異(permanent differences)」といい、その課税額は、企業会計上も課税された期間にかかる税額であり、特段の調整の必要はないことから、税効果会計の対象とはならない。

 一方、(a)には、減価償却費(耐用年数や償却方法の違い)、引当金の繰入れ(損金算入額の制限)貸倒損失(事実認定時点の違い)、特定の資産売却益(圧縮記帳による課税の繰延べ)等があり、収益、費用の認識時期が一時的にズレることから、「一時差異(temporary differences)」といわれている。この「一時差異」は、企業会計上「将来の期間利益に対応すべき税額で当期に支払うべきもの」あるいは「当期の利益に対応すべき税額で将来支払うもの」であったりする。このため、これらの税額を調整しないと、法人税等の額が税引前当期純利益と期間的に対応せず、税引前当期純利益と税引後当期純利益の関係を歪めることになり、投資情報としての企業の当期利益の的確な把握が阻害されるとともに、適正な期間比較、企業間比較が困難となる。この一時差異を調整するために税効果会計が採用される。

(3)税効果会計と申告調整

 税効果会計は、法人税法における申告調整と密接な関係をもっている。基本的には、次の図のように法人税申告書別表四で一時差異の判定を行い、法人税申告書別表五(一)で一時差異と、繰延税金資産、繰延税金負債の期首、期末残高及び当期の増減額が示される。

 

  別表四と一時差異・永久差異との関係





別表四



 


  加算項目
 

  留 保

 一時差異

 社外流出・その他

 永久差異


  減算項目

 

  留 保

 一時差異

  社外流出・※
 

 永久差異
 

 

(4)税効果会計の対象項目

 前項で、税効果会計の対象となるのは、一時差異についてであると述べた。

 一時差異の生じるケースとしては、 @収益又は費用の帰属年度が相違する場合、 A資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上され、かつ、課税所得の計算に含まれていない場合がある(意見書「税効果会計に係る会計基準」第二、一)。

 一時差異には、その発生事業年度において課税所得を増加させ、その後の事業年度において課税所得を減額させる「将来減算一時差異(deductible temporary differences)」と、その発生事業年度において課税所得を減額させ、その後の事業年度に、おいて課税所得を増額させる「将来加算一時差異(taxable temporary differences)」とがある。

 このほか、将来の課税所得を減少させるものとして繰越欠損金、繰越外国税額控除(以下、繰越欠損金等という。)がある。この繰越欠損金等については、将来の課税所得と相殺されて税額を減少させる効果があることから、税効果会計では一時差異と同様に取り扱うこととされている(以下一時差異及び繰越欠損金等を総称して「一時差異等」という。)。

(一)将来減算一時差異(実務指針T.8)

 将来の課税所得の計算上で減算効果のある一時差異である「将来減算一時差異」には、税務上では損金として認められない次のようなものがある。

  棚卸資産、有価証券等の評価損

  減価償却超過額

  貸倒引当金、退職給与引当金等の繰入限度超過額

  一括償却資産の消耗品費処理

  貸倒損失否認額

  未払事業税の損金不算入額

 この場合、法人税申告書では、原則として、発生時に別表四で加算留保するとともに、別表五(一)に記載され次期以降に繰り越される。その一時差異が解消された年度では、別表四で減算留保し、別表五(一)で消去する。

[例]税法上で評価損の計上が認められていない棚卸資産300の評価損と子会社貸付金で損金不算入の貸倒損失500を計上した場合

 1.発生事業年度

  繰延税金資産および繰延税金負債の算出方法は後述するが、この場合に翌期に繰り越される税効果(適用税率を40%として算出した。以下同じ)を320とすると、会計処理は、

 (借)繰延税金資産 320  (貸)法人税等調整額 320*

    * (300+500)×40% =320

 繰延税金資産は貸借対照表に計上され、法人税等調整額△320は、損益計算書で調整される。(法人税等には事業税は考慮しません。)

   損益計算書

・・・・・
税引前当期純利益         1,000
法人税等         720
法人税等調整額    △320    400
当期利益              600
 前期繰越利益           ○○○
 当期未処分利益         ****

 

  別表四

   区分
 
 総額
 
     処分
  留 保  社外流出
  当期利益   600   600  

加算
 
 損金に算入した納税充当金
 棚卸資産評価損否認
 貸倒損失否認
  720
  300
  500
  720
  300
  500


 

減算

 法人税等調整額

  320

  320

 
所得金額  1,800*   1.800  

  * 所得金額は、税効果会計を適用しない場合と同じになる。

 別表五(一)

区  分
 
 期首現在
 利益積立金
   当期中の増減 当期利益処分
 による増減
翌期首利益
積立金額
   減  増
棚卸資産       300     300
貸付金       500     500
繰延税金資産     △320    △320

 

 2.解消事業年度−全て解消したとき

 (借)法人税等調整額 320  (貸)繰延税金資産 320

   損益計算書

・・・・・
税引前当期純利益         1,000
法人税等         80
法人税等調整額     320    400
当期利益              600
 前期繰越利益           ○○○
 当期未処分利益         ****

 

  別表四

   区分
 
 総額
 
     処分
  留 保  社外流出
  当期利益   600    600  

加算
 
 損金に算入した納税充当金
 法人税等調整額
 
   80
  320
 
   80
   320
 


 

減算
 

 棚卸資産評価損認容
 貸倒損失認容

  300
  500

   300
   500


 

所得金額

  200

   200

 

 

 別表五(一)

区  分
 
 期首現在
 利益積立金
   当期中の増減 当期利益処分
 による増減
翌期首利益
積立金額
   減  増
棚卸資産   300    300        0
貸付金   500    500        0
繰延税金資産 △320  △320        0

 

(二)将来加算一時差異(実務指針T.10)

 将来の課税所得の計算上で加算効果のある「将来加算一時差異」になるものとしては、例えば、減価償却資産について利益処分方式により圧縮記帳を実施した場合は、会計上の固定資産の簿価は固定資産の取得価額で計上され、その後の減価償却計算等の基礎となるが、税務上の簿価は固定資産の取得価額から圧縮積立金を控除した後の額となり、当該資産の会計上の簿価と税務上の簿価との間に差額が生ずる。この差額は、将来の減価償却の実施により、会計上の減価償却費が税務上の減価償却費の損金算入限度額を超過することになり、当該償却超過額に相当する額について圧縮積立金を取り崩し、将来の課税所得の計算上当該圧縮積立金取崩高が加算されることになるため、将来加算一時差異となるのである。

 すなわち、「将来加算一時差異」には、次のようなものがある。

  利益処分方式による圧縮積立金

  利益処分方式による特別償却額

  利益処分方式による租税特別措置法上の準備金積立額

  資産又は負債の評価替えにより生じた評価差益

 この場合、法人税申告書では、原則として、発生時に別表四で減算留保するとともに、別表五(一)に記載され次期以降に繰り越される。その一時差異が解消された年度では、別表四で加算留保し、別表五(一)で消去する。

 

[例]租税特別措置法により圧縮記帳の適用を受ける土地を購入し、これを利益処分方式により圧縮限度額の圧縮積立金700を積み立てた。その後売却した。

 1.発生事業年度

 翌期に繰り越される税効果を280とすると、この会計処理は、

 (借)法人税等調整額 280  (貸)繰延税金負債 280

   損益計算書







 
 ・・・・・
 税引前当期純利益         1,000
 法人税等        120
 法人税等調整額     280     400
 当期利益              600
  前期繰越利益           ○○○
  当期未処分利益         ****

  別表四

   区分
 
 総額
 
     処分
  留 保  社外流出
  当期利益   600   600  

加算
 損金に算入した納税充当金
 法人税等調整額
  120
  280
  120
  280

 

減算

 土地圧縮積立金認容

  700

  700

 

所得金額

  300

  300

 

 

 別表五(一)

区  分
 
 期首現在
 利益積立金
   当期中の増減 当期利益処分
 による増減
翌期首利益
積立金額
   減  増
土地圧縮積立金           420 *    420
繰延税金負債        280      280
同上認容額      △700    △700

  * 税務上の圧縮額(700)のうち貸借対照表に計上した繰延税金負債(280)を控除した額

 

 2.解消事業年度

 当該土地を売却して税効果が解消された場合の別表五(一)を示す。

 別表五(一)

区  分
 
 期首現在
 利益積立金
   当期中の増減 当期利益処分
 による増減
翌期首利益
積立金額
   減  増
土地圧縮積立金    420        △ 420    0
繰延税金負債    280   280        0
同上認容額  △700  △700        0

 

 

(三)一時差異に準ずるもの(実務指針T.12、13)

 前述のように一時差異ではないが、一時差異と同様の税効果を有するものとして次の二つがある。

@ 税務上の繰越欠損金

 税務上の繰越欠損金(法人税法57条、58条)は、その発生年度の翌期以降で繰越期限切れとなるまでの期間(原則、5年間繰り越せる。以下「繰越期間」という。)に課税所得が生じた場合には、課税所得を減額することができる。その結果、課税所得が生じた年度の法人税等として納付すべき額は、税務上の繰越欠損金が存在しない場合に比べて軽減されるため、一時差異に準ずるものとして取り扱われている。

 この税軽減効果に対して、税務上の繰越欠損金が発生した年度に繰延税金資産及び法人税等調整額を計上する。繰越欠損金を繰延税金資産として計上するに当たっては、将来、十分な課税所得が発生することが予想されなければならず、それが実現できなければ不良債権の計上を許すことになる。すなわち、将来、十分な課税所得の発生が予想されなければ、繰延税金資産を計上することができない。この点については、後述する。

 なお、解消時の法人税申告書では、別表七「欠損金の損金算入に関する明細書」を作成し、別表四で当期の所得から控除する。

 

[例]税法上の繰越欠損金額2,000が発生し、翌期3,000の課税所得が発生した。

 1.発生事業年度

  翌期に繰り越される税効果を800とすると、会計処理は、

 (借)繰延税金資産 800  (貸)法人税等調整額 800

   損益計算書

 ・・・・・
  税引前当期純利益         △2,000
  法人税等          0
  法人税等調整額    △800     △800
  当期利益             △1.200  *

   *税効果会計により当期利益の赤字額は減少する。

  別表四

   区分
 
 総額
 
     処分
  留 保  社外流出
  当期利益  △1,200  △1,200  
加算  損金に算入した納税充当金     0     0  
減算  法人税等調整額    800    800  
差引計  △2,000  △2,000  
欠損金の当期控除額      
所得金額  △2,000  △2,000  

 

 2.翌事業年度

 (借)法人税等調整額 800  (貸)繰延税金資産 800

   損益計算書





 
 ・・・・・
 税引前当期純利益         3,000
 法人税等        400
 法人税等調整額     800    1,200
 当期利益             1,800

  別表四

   区分
 
 総額
 
     処分
  留 保  社外流出
  当期利益   1,800   1,800  
加算
 損金に算入した納税充当金
 法人税等調整額
   400
   800
   400
   800

 
減算           
差引計   3,000   3,000  
欠損金の当期控除額  △2,000    △2,000
所得金額   1,000   3,000  △2,000

 

 

A繰越外国税額控除

 国際的な二重課税を回避するために外国税額控除(法人税法69条)の制度が設けられている。この外国税額控除とは、内国法人の所得金額のうち国外所得金額について所得の発生した国で外国法人税を課せられている場合には、次に算式で求めた控除額の範囲でわが国の法人税額から外国法人税額を控除できる。

                  国内源泉所得

    当期の法人税額 × =控除限度額

                国内源泉所得 + 国外源泉所得

 

 

 当期の控除対象外国法人税額が当期の控除限度額を超えるため控除しきれない金額が生じたときは、その金額を翌期以降3年以内の事業年度に繰り越すことができる。翌期以降、控除限度額に余裕(外国税額控除余裕額という)が生じた場合に、その範囲内で法人税額から控除することが認められている。このように一時差異と同じように税額を減少させることがあることから、この繰越外国税額控除についても一時差異に準ずるものとするして、繰延税金資産及び法人税等調整額を計上する。

 ただしこの場合にも、将来において繰越外国税額を控除できるだけの控除余裕額の発生が見込まれる場合でなければならない。

 

 

(5)税効果会計の対象とならない項目

  永久差異は税効果の対象とならない。永久差異は、会計上の収益又は費用と税法上の益金又は損金の概念自体の相違によって発生するもので、法人税の期間配分の対象とはされない。これらは、法人税申告書別表四で申告調整される。

 税効果を認識しない申告調整項目を次に例示する。

  受取配当等の益金不算入額(法人税法23条)

  過大役員報酬、役員賞与、過大役員退職給与等の損金不算入額(法人税法34条他)

  寄附金の損金不算入額(法人税法37条)

  法人税額等の損金不算入額(法人税法38条)

  交際費等の損金不算入額(租税特別措置法61条の4)

 

(6)税効果会計の対象税金と適用税率

 (一)対象税金

 税効果会計の対象となる税金は、利益を課税標準とする税金に限られる。次に税効果会計の対象となるものとならないものを示す。       

  イ 税効果会計の対象となる税金

  @法人税 A住民税(都道府県民税・市町村民税) B事業税(利益を課税標準とするもの) C外国法人税 など

  ロ税効果会計の対象とならない税金

  @消費税・地方消費税 A固定資産税、事業所税等 B住民税の均等割額 C附帯税等 D事業税(収入金額を課税標準とするもの) E同族会社の留保金課税 F使途秘匿金課税 G土地譲渡益重課税 など

 (二)適用税率

  税効果会計では、法人税額等を修正する手段として法定実行税率が用いられる。法定実行税率は、支払事業税の損金算入の影響が考慮される。

 そして一時差異に係る税金相当額である繰延税金資産および繰延税金負債は次のように算出される。

 将来減算一時差異 × 法定実行税率 = 繰延税金資産

 将来加算一時差異 × 法定実行税率 = 繰延税金負債

 

 法定実行税率を算式で示すと次のようになる。

 法人税率 × (1+住民税率) + 事業税率

=法定実行税率

         1+事業税率

 平成11年4月1日以後開始事業年度で、住民税とは標準税率を適用して法定実行税率を算出すると

  30%×(1+17.3%)+9.6%

        1+ 9.6%             =40.87%

 税効果会計で適用される税率は、繰延税金資産および繰延税金負債の回収または支払の行われると見込まれる期の税率が用いられるが、特別な事由がない限り、現在の税率が今後も継続すると考えることが、合理的であろう。

 ただし、税制改正で当該決算日までに将来の適用税率が示され、公布されている場合には、改正後の税率を適用する。また過年度に計上された繰延税金資産および繰延税金負債の金額を修正する。

 税率の適用に当たって、中小法人の場合には法人税および事業税の軽減税率の適用がある場合(最少29.34%となる)や、住民税が標準税率と実際の税率が相違している場合には、法定実行税率を計算に当たってどの税率をとるかは問題となる。税効果会計の趣旨が税金費用の適正な期間配分にあることから、実体から乖離した税率を用いるより、実際予想される税率を用いるべきであろう。ただし、標準税率等を用いた実行税率と実際の税率による実行税率に大きな差異がない場合には、継続して採用するなどして標準税率等によることも実務的にはとりえよう。

 

4.税効果会計の適用会社と適用時期

  税効果会計は、平成10年12月の財務省規則等の改正により、全ての株式公開会社(有価証券報告書提出会社)は、「連結財務諸表」と「個別財務諸表」の両方について税効果会計を適用しなければならないとされ、平成12年3月期よりすでに適用されている。また、平成12年4月1日以後開始する事業年度からは中間財務諸表と中間連結財務諸表にも適用が義務づけられている。

 また、非公開企業のうち、商法上の大会社(資本金5億円以上または負債が200億円以上)にも税効果会計が義務づけられた。

 その他の中小株式会社、有限会社、合資会社等については、財務諸表規則の適用はなく、商法の適用を受けるのみであるので、税効果会計の適用を強制されるかどうかは、商法32条2項の「公正ナル会計慣行」の解釈によるところとなり、現時点では強制はされていないとするのが一般的であるが、本稿“はじめに”記載のように、今後、財務諸表の公開、債権者に対する経営情報の開示の段階では税効果による判断を求められることも考えられることから、これら中小法人についても、税効果会計を導入することが望ましいことは明らかである。

 

5.繰延税金資産の回収可能性

 将来減算一時差異および税務上の繰越欠損金に係る“繰延税金資産”は、貸借対照表の資産の部に計上されることから、当然に資産性がなければならない。

 そこで、繰延税金資産の計上に当たっては、その資産の回収可能性の有無の判定が必要になる。この場合、将来減算一時差異に係る繰延税金資産の計上が認められるかどうかは、次の要件のいずれかを満たしているかどうかにより判断することとされている(実務指針T21)。

@  収益力に基づく課税所得の十分性

 イ 将来減算一時差異の解消予定年度に当該一時差異を上回る課税所得が発生する可能性が高いと見込まれること

 ロ 税務上の繰越欠損金の繰越期間に、課税所得が発生する可能性が高いと見込まれること

 上記イ、ロの場合に、課税所得が発生する可能性が高いかどうかを判断するためには、過年度の納税状況及び将来の業績予測等を総合的に勘案し、課税所得の額を合理的に見積もる必要がある。

A タックスプランニングの存在

 将来減算一時差異の解消年度及び税務上の繰越期間内に、この一時差異を上回る課税所得が、固定資産又は有価証券の売却等で予定されているようなタックスプランニングが存在すること

B 将来加算一時差異の十分性

 イ 将来減算一時差異の解消予定年度にこの一時差異を上回る“将来加算一時差異”の解消によって発生することが見込まれること

 ロ 税務上の繰越欠損金と相殺される将来加算一時差異の解消の発生が見込まれること

 

6.繰延税金資産の計上限度額

 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の計上については、前記回収可能性の判断要件を考慮し、将来回収が見込まれる額を限度として計上されなければならない(実務指針T22)

 

7.繰延税金資産の回収可能性の見直し

 繰延税金資産の計上額は会社の毎決算日現在で見直し、繰延税金資産に係る将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の全部又は一部の税効果が回収可能性の判断要件を満たさなくなった場合には、計上されていた繰延税金資産のうち過大となった金額を取り崩さなければならない(実務指針T23)
 また、過年度に回収可能性がないとして計上されていなかった場合でも、回収見込の判断要件を満たすことになった場合には、回収されると見込まれる金額まで新たに繰延税金資産を計上する。
 なお、回収可能性を見直した結果生じた繰延税金資産の修正増減差額は、見直しを行った年度における損益計算書上の法人税等調整額に加減する。ただし、資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上されている場合における、当該評価差額に係る繰延税金資産の修正差額(及び合理的に配分された繰延税金資産の修正差額を含む。)は、これを評価差額に加減して処理する。

 

おわりに

 税効果会計は、単に赤字を縮小させるためあるいは利益操作に使われてはならない。税効果会計の本来の目的は「期間損益の適正な表示」にあることは言うまでもない.。中書法人においても効果会計は、時価会計、キャシュフロー計算と併せて経営判断指標として用いられるべきであろう。

                                  以上

追加

 

1.税効果会計適用初年度の処理

○ 減価償却超過額。一括償却資産が適用年度前にあった場合

 *前期の別表五(一)

区  分
 
期首現在
利益積立金
   当期中の増減 当期利益処分
 による増減
翌期首利益
積立金額
   減  増
減価償却超過額       1,000     1,000
一括償却資産       600      600

  一括償却資産は、翌年以降300づつ2年間で減算する。

 

  *当期の処理

 当期の増減分

  項 目 期首残高  解消額 発生額 期末残高
減価償却超過額   1,000   1,000  
一括償却資産   600   300   300
 未払事業税        100   100



 

  

 (借)固定資産 1,000  (貸)前期損益修正益 1,000

 (借)法人税等  400  (貸)未払法人税等   400

  このうち未払事業税等100がある場合の処理(法定実行税率40%)

 

 *税効果会計処理

 減価償却超過額、一括償却資産は、将来減算一時差異となることから

  適用前の部分については、

 (借)繰延税金資産 640  (貸)過年度税効果調整額 640

 

  (借)法人税等調整額 480*  (貸)繰延税金資産  480

    * 1,600×40% − 400×40%

 

   損益計算書

・・・・・
税引前当期純利益         1,000
法人税等         400
法人税等調整額     △480   △80 
当期利益             1,080
 前期繰越利益          ○○○
 過年度税効果調整額        640
 当期未処分利益         ****

 

  別表四

   区分
 
 総額
 
     処分
  留 保  社外流出
  当期利益   1,080   1,080  

加算
 
 損金に算入した納税充当金
 一括償却資産償却超過額
 
  400
  
  
  400
  
  


 

減算

 

 前期損益修正益認容
 法人税等調整額
一括償却資産償却超過額認容

  1,000    480
   300

  1,000
   480
   300



 
所得金額  △300   △300  

  * 所得金額は、税効果会計を適用しない場合と同じ

                             that's all


(注1) 弥永真生「税効果会計の理論的背景と問題点」商事法務1522号14頁、(1999年)

(注2) 中田信正「税効果会計・連結納税制度」企業会計51巻1号184頁(1999年1月)

(注3)  岩下忠吾「租税実務と会計ビッグバン」税研89号63頁(2000年)、同氏「税効果会計と税務調整」税理士会の研修資料を参考にした。

 

(注4)  大蔵省・法務省「商法と企業会計の調整に関する研究会報告書」1998年(平成10年)6月16日