これは、税経通信(税務経理協会)55巻11号95頁(2000年9月号)に掲載したものです。実際の取引についての多くは、参考文献を参考にしました。 特に、横山登・茂木哲両先生の『よくわかる金融商品会計』日本実業出版社41頁(2000)は、判りやすく、多くを参考にしました。有り難うございました。
 また、原文と相違していますので、税経通信をお読み下さい。
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デリバディブ取引に関する会計・税務の取扱い

                                 2000.7.20

                              税理士 中江博行

 

 わが国の金融・証券市場は、金融の自由化・国際化によって急激な改革を余儀なくされ、いわゆる金融ビッグバンといわれる金融システム改革が近年急激に進められている。金融システム改革、金融取引技術や情報・通信技術の進歩等はより大きなマーケットを金融市場に提供することとなり、次々と新しい金融商品が生み出された。

 その中で、先物(フューチャー)、先渡(フォワード)、スワップ、オプションなどの“デリバティブ”といわれる金融派生商品(Derivative Financial Instrument)に係る取引は、現物取引を超える規模で拡大し、金融市場でのその重要性が増すとともにその内容も複雑・多様化している。

 このため、国税庁においては、平成10年10月30日付けで「金融商品に関する法人税の取扱いについて」(課法2-11(例規)、以下“デリバディブ通達”という)を発遣した。また企業会計においても、大蔵省の企業会計審議会(会長若杉明高千穂商科大学教授)は、平成11年1月22日に、「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」を公表し(以下、“金融商品会計基準”という)、これを補完する「金融商品会計に関する実務指針(中間報告)」が、平成12年1月31日に日本公認会計士協会より公表された注1。また平成12年3月には「金融商品に係る会計基準」等の財務諸表等規則等の4省令(大蔵省令第8号〜11号)が改正され、4月1日以後開始する事業年度から公開会社を中心に適用された。

 なお、平成12年度の税制改正において、デリバディブ取引、ヘッジ処理における益金・損金算入等の規定が新設された。

 そこで、本稿では、この“デリバディブ取引”に係る会計と税務について概説する。

 

T.デリバディブ取引の目的・背景

1.デリバディブ取引の特徴

 この金融派生商品である“デリバディブ”とは、資金、債権、為替、株式などの金融商品から派生したもので、これら商品の価格変動に連動して理論的な価格が定まる商品を総称している。具体的には、法人税ではデリバティブ取引を先物取引、先渡取引、スワップ取引、オプション取引その他これらに類似する取引をいうと定義している(デリバディブ通達1-1(7))。

 デリバディブ取引が、近年急激に伸張した理由は、その取引の目的・特徴と無縁ではない。まず第一に、金利、為替レートなどの価格変動から生ずるマーケットリスクを回避又は減少させる目的でこの取引が利用されている。これがいわゆる“リスクヘッジ”といわれるもので、企業は、近年のように高度にグローバル化したマーケットにおける市場環境から企業財務の損失を回避するために投資の分散を図るポートフォリオ運用とともにヘッジ手段を講じなければならなかった。また信用リスクを扱う“クレジット・デリバディブ”も取り引きされている。

 第二として、デリバディブ取引は、ヘッジとは逆に低コストでの資金調達や高利回りでの資金運用が可能であることからハイリスクは伴うが、高収益のレバレッジ効果を期待できることから利用されていった。

 またデリバディブ取引の特徴の一つに、一般の金融取引では信用リスクが中心であるがデリバディブ取引はマーケットリスクの依存割合が高い点にある注2。そして、従来はデリバディブ取引が、決済時までバランスシートに記載されない“オフバランス”で処理されてきたが、会計基準の改正によって現在では、原則として期末ごとに評価替えされ、オンバランスとして処理され、評価差額が各期の損益に反映されるようになった。

 

2.デリバディブ取引の従来の問題点−会計上・税務上で整備された理由−

 わが国企業会計では、従来より取得原価主義が採用されていることから、デリバディブ取引においても、取引を決済したときに初めて損益が認識されるため、「含み損」が損益計算書に反映されず、実態が明らかにされない点があった。このことは、決済した時点で初めて損益が実現するため毎期の決算が大きく変動し、決済を恣意的に行うことで利益操作に使われる恐れがあるばかりでなく、取引の約定時に委託証拠金やオプション料等で実際に金銭の授受を伴うものを除き、預金取引や有価証券取引など貸借対照表に表示されるオンバランス取引と異なり貸借対照表に表示されないオフバランス取引のため、投資家等が、企業の実体を的確に把握し難くなっていた。また、現行の企業会計ではヘッジ会計が導入されていないため、現物の損益と先物の損益の計上時期が一致しない場合、ヘッジ取引の実態が決算書に反映されない等の問題の対応が求められていた注3

 このため税務上においても次のような問題が指摘されていた注4

 @ 所得の帰属年度の変更による課税の繰り延べ

 A 所得種類の変更による課税の回避

 B 所得の源泉地の変更による課税の回避

 この中で、法令の整備・改正を必要としない所得の年度帰属については、デリバディブ通達で対応を図っていたのであるが、デリバディブ取引は、多種多様な取引が次々と創出され、課税上の取扱いを一般化することは困難で、個別の取引実体に即して判断せざるを得ないことから、デリバディブ通達では、先物取引、先渡取引、スワップ取引やオプション取引注5などの基本的な取引について取扱いを定めているに過ぎない。

 このような、従来からの問題に対応し、企業のデスクロージャーを確保するため会計基準の整備が行われ、それに対応するため法人税法での手当がなされた。

 

U.デリバディブ取引に係る会計処理

 前節で述べた如くデリバディブ取引に係る問題を解決すべく、平成11年1月22日に公表された「金融商品会計基準」は、国際会計基準の動向も踏まえて、連結財務諸表制度の見直し、税効果会計・キャッシュ・フロー計算書の導入など一連の会計制度の整備の一環として示された。

 この金融商品会計基準は、わが国金融商品に関する会計基準に決算時評価基準として時価評価を定め、本年4月1日開始事業年度から財務諸表に記載すべきこととされ、デリバディブについても当然この基準の適用を受けることから、原則として、損益、資産残高を財務諸表上に示されることになった。

 デリバディブ取引に関する「金融商品に係る会計基準」の概要を、次に示す。

1.デリバディブ取引

@ デリバディブ取引においては、その価値は、その契約を構成する権利と義務の価値の純額に求められることから、その取引から生じる正味の債権は金融資産となり、正味の債務は金融負債となる。

A デリバディブ取引により生じる正味の債権・債務は、時価をもって貸借対照表価額とする。

B デリバディブ取引において時価変動によって生ずる評価差額は、後述(2)のヘッジに係るものを除き、当期の損益として処理する。

C 金融資産・金融負債は、契約時から時価変動リスク、信用リスクが生じるため、決済時ではなく約定時に発生を認識する。

D 時価とは、公正な評価額をいい、市場価格又はこれに基づく合理的な価額による。デリバディブ取引の対象となる金融商品に市場価格等がなく公正な評価額を算定することが困難な場合には、取得価額をもって貸借対照表価額とすることができる。

2.ヘッジ会計

@ ヘッジ取引とは、ヘッジ対象の資産・負債に係る相場変動を相殺させるため、あるいはヘッジ対象の資産・負債に係るキャッシュ・フローを固定してその変動を回避するため、ヘッジ対象である資産・負債の価格変動、金利変動及び為替変動等の相場変動等による損失を減殺する目的でデリバディブ取引をヘッジの手段としても用いる取引をいう。

A デリバティブ取引は、毎決算期に時価評価されるため、ヘッジ対象の資産・負債が原価評価される場合、ヘッジ手段との間に損益認識時期のずれが生じ、ヘッジ取引の経済実態が財務諸表に反映されない場合が生じる。そこで、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識させる「ヘッジ会計」が必要である。

B ヘッジ会計の方法としては、原則として、時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額をヘッジ対象に係る損益が認識されるまでデリバディブ損益を繰り延べる。なお、ヘッジ対象の資産・負債が損益に反映することができる場合には、デリバディブ損益を繰り延べずに、両者の損益を同一会計期間内に認識することも、諸外国の会計基準との調和を図る意味で認められる。

C ヘッジ対象が消滅したとき、ヘッジ対象である予定取引が行われないことが明らかとなったときは、その時点でヘッジ会計が終了し、繰り延べられているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を当期の損益として処理する。

D ヘッジ会計の要件が充たされなくなったときには、ヘッジ会計の要件が満たされていた間のヘッジ手段に係る損益又は評価差額をヘッジ対象に係る損益が認識されるまで引き続き繰り延べる。ただし、繰り延べられたヘッジ手段に係る損益又は評価差額について、ヘッジ対象に係る含み益が減少することによりヘッジ会計の終了時点で、重要な損失を生ずる恐れがあるときは、損失部分を見積もり、当期の損失として処理する。

(3)複合金融商品(複数の金融商品を組み合わせた商品)

 金利オプションを組み込んだ借入金のように金利の支払がネットされるものは原則として一つの金融商品として処理する。ただし、デリバティブの価値が元本の返済額を増減させるようなもの(借入元本に係る通貨オプションを組み入れた円建ローン等)は元本とデリバティブを区分し、元本は原価評価、デリバティブは時価評価する。

 

V.デリバディブ取引に係る税務

 従来、金融機関等の特定取引勘定で行うデリバディブ取引等については、平成9年4月から導入された時価法により、税法においても「金融機関等の特定取引に係る課税の特例(旧措置法67の9)」を定め、期末に未決済となっている取引については、期末に決済されたものとみなした場合に算出される利益相当額又は損失相当額を益金又は損金とされていた。

 平成12年4月1日よりデリバディブ取引に関する会計基準の適用により時価評価されることになったことから、この旧租税特別措置法第67の9の規定が廃止され、新たに本法(法人税法)に、「デリバティブ取引に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等(法人税法第61条の5)」、「繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ(法人税法第61条の6)」及び「時価ヘッジ処理による利益額又は損失額の計上(法人税法第61条の7)」等が新設され(平成12年法律第14号)、平成12年4月1日開始事業年度の法人から適用されている。

 

1.デリバディブ取引のみなし決算

(1) デリバティブ取引に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等(法人税法第61条の5)」

 前述のように、企業会計においてデリバディブ取引が時価評価されることになったことから、法人税法においても、事業年度終了時に決済されていないデリバディブ取引を、決済されたものとみなして、それによって算出される利益の額又は損失の額に相当する金額は益金の額又は損金の額に算入することとされた(同条1項)。

 なお、当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した未決済デリバディブ取引のみなし決済による利益の額又は損失の額に相当する金額は、翌事業年度の損金の額又は益金の額に算入し、洗い替え処理を行う(法人税法施行令第120条)。

 また、デリバティブ取引に係る契約に基づき金銭以外の資産を取得した場合(繰延ヘッジ処理の適用を受けるデリバティブ取引により資産を取得した場合を除く。)には、その取得の時におけるその資産の価額とその取得の基因となったデリバティブ取引に係る契約に基づきその資産の取得の対価として支払った金額との差額は、取得の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされた(同条2項)。

(2)有価証券の空売り等に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等(法人税法第第61条の4 )

 有価証券の空売り、信用取引、発行日取引又は有価証券の引受けのうち、期末に未決済のものがあるときは、決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額を所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する(同1項)。

 信用取引及び発行日取引(買付けに限る。)により有価証券を取得した場合(繰延ヘッジ処理の適用を受ける場合を除く。)には、その取得の対価として支払った金額と時価との差額を、取得の日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する(同2項)。

 

2.会計処理注6

  具体的実例をもとに会計処理を考えてみる。なおいずれの設問もヘッジ取引ではないとする。

(先物取引)

【設問1】当社(3月決算)は,次の取引を行いました。当社の会計処理はどうなりますか。

     約定日 平成13年3月1日(差入日3月3日)  

     金利先物取引  東京金融先物取引所 取引単位 50枚(50億円) 

     限月 6月     売却価格 98.50の金利先物を売る

     決済 13年5月15日金利が上昇したため97.65で50単位買い戻す。

                        (手数料は考慮しない)

     なお、3月31日の時価は98.10、差入証拠金6,000,000円です。

 (解答)

1.会計処理

  平成13年3月3日  (借方)差入証拠金 6,000,000 (貸方)現金預金6,000,000

  平成13年3月31日(決算時)

       (借方)金利先物資産 5,000,000*1(貸方)金利先物損益5,000,000(益金算入)

        *1 2,500÷0.01×(98.5−98.1)×50=5,000,000

  平成13年4月1日(期首洗替)

       (借方)金利先物損益 5,000,000(貸方)金利先物資産5,000,000

  平成13年5月15日(決済時)

       (借方)現金預金 10,625,000*2 (貸方)金利先物損益 10,625,000

       (借方)現金預金  6,000,000   (貸方)差入証拠金  6,000,000

        *2 2,500÷0.01×(98.5−97.65)×50=10,625,000      

2.解説

 金利先物取引とは、将来の金利の変動から生じるリスクを回避するために利用されています。例えば、半年以内に金融機関からの借入を予定しているのですが、金利が上昇しそうなので、現在の金利で借りたいとします。この場合にこの事例のように金利先物を売っておき金利上昇のリスクを回避することができます。

 3月1日の契約時の金利先物価格が98.50となっていますが、これは、100から金利を引いたところで現されています。このときは、金利が1.5%(100−98.50)で、決済時2.35%(100-97.65)に上昇したという事例です。すなわち、金利が上昇すれば先物価格は低下し、そこで売ればこの事例のように利益が得られますので、借入金利上昇分を先物利益で埋め合わせる結果となりました。

 6月限月(げんげつ)とは、未決済の建玉(たてぎょく)を決済する期日のことで、「期限の月」の略称です。限月は、通常3.6.9.12月に限られています。取引単位は1億円で、1取引単位を1枚といいます。取引所で取引する際の数量の単位である呼値(よびね)は、0.01を1ティックとし、1ティックの変動は、2,500円の損益となります。

   (1ティック=1億円×0.01/100×3/12=2,500円)

 

(スワップ取引)

【設問2】当社(3月決算)は、当期に次のような固定金利を支払い、変動金利を受け取る   金利スワップ取引を行いました。当社の会計処理はどうなりますか。

   開始日 平成12年7月1日

   想定元本 1億円 期間3年 

   支払金利(固定) 2.6%s.a.

   受取金利(変動)6ヶ月LIBOR 当初6ヶ月2.4% 、次の6ヶ月2.5%

   金利交換日 12月末、6月末

 

 (解答)

 1.会計処理

  平成12年12月31日(利息交換時)

     (借方)金利スワップ費用1,300,000 (貸方)現金預金 1,300,000

         現金預金 1,200,000   金利スワップ収益 1,200,000

   平成13年3月31日(決算時)

       (借方)金利スワップ評価損 25,000(損金算入)*1(貸方)金利スワップ負債25,000

            

        *1 100,000,000×(0.026−0.025)×3/12=25,000

   平成13年4月1日(期首洗替)

       (借方)金利スワップ負債25,000(貸方)金利スワップ評価損 25,000

   平成13年6月30日(利息交換時)

     (借方)金利スワップ費用1,300,000 (貸方)現金預金     1,300,000

         現金預金   1,250,000      金利スワップ収益 1,250,000

2.解説

  スワップ取引には、金利スワップと通貨スワップがありますが、金利スワップは、この事例のように固定金利と変動金利など、同一通貨で異なる金利の支払と受取を交換する取引で、将来の利息の変動リスクを回避するために用いられます。

 LIBOR(ライボ−London Inter Bank Offered Rate)とは、毎日ロンドン市場の銀行間で取引されているユーロデポジット取引におけるオファーサイドのレートを、英国銀行協会が集計し発表した平均値で、国際的な短期取引基準金利として代表的なものです。また、国内のものとしては、TIBOR(Tokyo Inter Bank Offerd Rate)があります。

 

(オプション取引)

【設問3】当社(3月決算)は、次のドル・プット・オプションを購入し決済しました。

    当社の会計処理はどうなりますか。

    約定日 13年2月15日(オプション支払日2月19日)  

    行使価格 1$=110円(行使価格) で100万ドル

    オプション料(プレミアム) 1円

     権利行使・決済日 13年4月15日 1$=105円

     なお、3月31日の市場相場 1$=107円 です。

 

 (解答)

1.会計処理

  平成13年2月19日  (借方)オプション資産 1,000,000 (貸方)現金預金1,000,000

  平成13年3月31日(決算時)

     借方)オプション資産 2,000,000*1(貸方)オプション評価損益2,000,000(益金算入)

        *1 1,000,000×(110-107)−1,000,000=2,000,000

  平成13年4月1日(期首洗替)

       (借方)オプション評価損益2,000,000(貸方)オプション資産 2,000,000

  平成13年 5月15日(決済時)

       (借方)現金預金 5,000,000 (貸方)オプション資産 1,000,000

                         オプション損益 4,000,000

 

2.解説

 オプション取引とは、対象商品を売買する権利を取り引きします。買うオプションをコール・オプション、売るオプションをプット・オプションといいます。それぞれに権利を売る取引、権利を買う取引があり、この売手、買手がそろって初めてオプション取引が成立します。取引が成立すると買手は、手数料(“オプション料”あるいは“プレミアム”といいます)を売手に支払います。買手は、その商品が値下がりした場合には、買う権利を放棄して、結果的にはオプション料のみの損失で抑えることができますが、売手は権利を放棄することはできません。この事例の取引は、為替の変動リスクを回避するために用いられています。

 

2.ヘッジ会計に係る税務

 ヘッジ取引においても企業会計上の取扱いにあわせた課税の取扱いが定められ、ヘッジ取引の対象となっている資産・負債とヘッジ取引の手段となっているデリバディブ取引等の損益の計上時期を合わせることとなった。この損益の計上時期を合わせる方法には、ヘッジ取引の手段となっているデリバディブ取引等のみなし決済による利益の額又は損失の額に相当する金額の計上を、時価評価の対象とされていないヘッジ取引の対象の損益の計上時期に合わせて繰り延べる方法(原則的方法)とヘッジ取引の対象の時価評価を行うことによって、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一会計期間に認識する方法がある。前者を繰延ヘッジ処理として法人税法第61条の6で、後者を時価ヘッジ処理として法人税法第61条の7で手当てされた。

 なおデリバディブ取引の利用されるヘッジ会計については、別項(注 税経通信2000年9月118頁の部分です)で詳述されているので税法上の取扱いのみを示す。

(1) 繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ(法人税法第61条の6)

 内国法人が次の“ヘッジ対象資産等損失額”を減少させるためにデリバティブ取引等を行つた場合(時価ヘッジ処理の適用を受ける場合を除き、ヘッジ対象資産等損失額を減少させるために行つたものである旨その他一定の事項を帳簿書類に記載した場合に限る。)で、そのデリバティブ取引等がヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められる場合には、そのデリバティブ取引等に係る利益額又は損失額(デリバティブ取引等の決済によつて生じた利益の額又は損失の額、有価証券の空売り等のみなし決済による利益の額又は損失の額に相当する金額、外貨建資産等の期末換算差益・差損)は、次の資産若しくは負債の譲渡若しくは消滅又は金銭の受取若しくは支払の日の属する事業年度までその計上を繰り延べる。

 @ 資産(売買目的有価証券を除く。)又は負債の価額の変動(期末時換算をする外貨建資産等の為替変動に基因する変動を除く。)に伴つて生ずるおそれのある損失

 A 資産の取得若しくは譲渡、負債の発生若しくは消滅、金利の受取若しくは支払その他これらに準ずるものに係る決済により受け取ることとなり、又は支払うこととなる金銭の額の変動に伴つて生ずるおそれのある損失

(2)時価ヘッジ処理による利益額又は損失額の計上(法人税法第61条の7)

 内国法人が、その有する売買目的外有価証券の価額の変動により生ずるおそれのある損失の額を減少させるためにデリバティブ取引等を行つた場合(その売買目的外有価証券を期末時若しくは決済時の時価により評価し又は期末時若しくは決済時の外国為替の売買相場により円換算する旨等を帳簿書類に記載した場合に限る。)で、そのデリバティブ取引等がその損失の額を減少させるために有効であると認められるときは、その売買目的外有価証券の時価と帳簿価額との差額のうちそのデリバティブ取引等の利益額又は損失額に対応する部分の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。

 

おわりに

 デリバディブ市場の構成は、店頭取引では金利スワップが69%、外為先物・為替スワップが16%を占め、取引所取引では、金利先物、金利オプションがそれぞれ86%、13%を占めている注7。為替・金利の変動をヘッジするための取引が多くを占めるとともにデリバディブのマーケットは、急速に拡大し、新しい商品が次々と創出されている。

 このため、会計基準や税制は、今後ますます早期の対応を迫られることになろう。

 

                                   以上


注1 実務指針を検討した、古賀智敏「金融商品に関する実務指針によせて」税経通信55巻5号25頁(2000)に詳しい。「実務指針」は、JICPAジャ−ナル2000年3月号付録参照

注2 東京国税局調査審理課編『デリバディブ取引の税務』大蔵財務協会(1997)6頁以下、荻茂生、川本修司『デリバディブの会計実務』中央経済社(1997)4頁以下参照。

注3 デリバディブ会計・開示の問題については、弥永真生『デリバディブと企業会計法』中央経済社(1998)がある。

注4 伊藤邦夫「金融商品に関する法人税の取扱い(上)(下)」 国税速報 5118号(平成11年3月15日)4頁、5120号3頁。

注5  先物取引(futures)とは、金融商品を決められた将来の一定時点で、約定された価格で売買することを約束する取引で、金利先物、債券先物や通貨先物などがある。

 先渡取引(forward)とは、先物取引と類似するが、先物取引が取引所を通して取り引きされるのに対して店頭取引(相対取引)で、FRA(forward-rate-agreement/金利先渡取引)やFXA(forward-exchange-agreement/為替先渡取引)などがある。

 スワップ取引(swaps)とは、将来の一定時点で異なる金利、通貨間のキャッシュ・フローをあらかじめ定められた方法で交換する取引で、通貨スワップ(currency swaps)、金利スワップ(interest rate swaps)がある。

 オプション取引(options)とは、商品等を将来の一定の時点で、あらかじめ決められた価格で売買することができる権利を売買する取引。オプションの買い手はオプション料をオプションの売り手に支払い、売り手は、約束の価格でオプションの買い手に商品を売る義務を負う。

注6 横山登・茂木哲也『よくわかる金融商品会計』日本実業出版社41頁(2000)と三宅輝幸『デリバディブのしくみ』日本実業出版社(1998)を参考にした。

注7 管野浅雄『金融&デリバディブの税務』財経詳報社102頁(1999)。


    

   Last Updated:16/AUG/2000