これは、税経通信(税務経理協会)55巻2号87頁(2000年2月号)に掲載したものです。掲載したものとは異なると思います。手直しする前のもので、これを読み直すのはきついので、そのまま載せますが、雑誌の方をお読みください。修正申告の慫慂について書きました。この慫慂は、“しょうよう”と読みますが、あまり一般的ではない漢字ですので、まわりの友人からはもっと判りやすく書くことと、難しい漢字を使うべきではないと怒られます。読み易いようにといつも心がけてはいますが、相変わらず何をいっているのかよくわからないというお叱りも多く頂きます。読み易く、何をいっているのか判るように書きたいのですが、知識が不足しているせいで、どうもいけません。
 この問題は、簡単にいえば修正申告は安易に出せば不利益を被りますよ、しかし私は実務ではそれなりに効果もあり肯定していますといった内容をくだくだと述べているだけです。多分目新しいとことは無かったと思います。マー、今までこのテーマについては偉い先生方が色々書かれていますので、記事内の引用文献をお読みください。その中で、碓井先生の論文が何か少し見えたような気がしました。記事中は簡単に紹介しておりますが、それ以上のインパクトが与えられました。それから黒田東彦氏の回想論文をあげましたが、先生は同誌の巻頭言(2頁)に書かれておられました。大変失礼いたしました。
 それから、過去に税務署の裁量権についての論争があり、その文献を紹介しておりますが(92頁、右側注)、今と時代が違うので、止む得ないかと思いますが、おもしろい内容です。特に行政裁量については興味を持っていますので、そのうちどこかで書きたいと思っています。それでは、参考までにお読みください。
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 特集 最近の税務調査とその対策
  修正申告の慫慂とその問題         1999.12.15 税理士 中江博行
 
はじめに
 
 税務職員は“調査について必要があるとき”には、「租税職員の質問検査権(所法234条、法法153条など)」に基づく税務調査を実施する権限が認められている。税務調査は、わが国の申告納税制度を担保するきわめて重要な機能を果たすもので、その結果申告された課税標準等又は税額等の計算が、課税庁の計算と異なり過少であるときは、税務署長による更正・決定あるいは課税庁の計算を基にした修正申告の提出が納税者に求められる。 この課税庁によって修正申告を求められることを、いわゆる“修正申告の慫慂”といわれ、実務の現場では課税庁が更正・決定により申告税額の増額変更が行われるより、課税庁の慫慂による修正申告によることが遙かに多い。
 しかしこの修正申告の慫慂については、安易に修正申告に応じた結果、その後の納税者の救済が十分でないなど、その危険性については多くの論稿が発表されている(注)。
 本稿は、主に、修正申告の慫慂による修正申告書を提出した場合の効果及びそれに伴い発生する種々の問題について、税理士という実務家の立場から自戒を込めて検討を行ってみたい。
 (注)修正申告に慫慂については、首藤重幸「修正申告の慫慂と税務行政指導」日税研論集36号69頁、占部裕典「勧奨による修正申告の誤りに対する救済方法(1)(2完)」六甲台論集34巻1号141頁、八幡大学論集38巻3・4合併号111頁、武田昌輔「修正申告の慫慂と税務問題」税経通信42巻13号84頁、三木義一「修正申告とその権利救済」税理29巻4号16頁、等がある。
 
 
T.修正申告
 本稿のテーマである修正申告の慫慂について検討する前に、ここで、修正申告の概略を示すことにする。
1.修正申告の意義
 納税申告書を提出した者及び更正・決定を受けた者並びにこれらの相続人その他これらの者の財産に属する権利義務を包括して承継した者(死亡、合併等に伴い納税義務を承継するため)が、その申告又は更正決定等に係る税額が過少でであること、純損失等の金額が過大であること、還付金の額に相当する税額が過大であること等に気付いたときは、その申告又は更正決定について税務署長等による更正があるまでは、その申告等に係る課税標準等又は税額等を修正する申告をすることができる(国税通則法19条1項、2項)。これを修正申告といい、この申告書を修正申告書という(3項)。
 すなわち修正申告は、申告等を自己に不利益に変更する、いわゆる増額変更をなすことで更正があるまでは、いつでも自発的に修正申告をすることができる。ただし修正申告を任意に行うものの他に、例外的に法で修正申告の提出を義務づけているものもある。これを義務的修正申告といい、後述する。
 また不利益変更である修正申告とは逆に自己の申告等の内容を自己の利益に変更しようとするときは、適用期限に制限を定める“更正の請求”(通則23条)によらなければならない。いずれの場合も、通常、申告者が自己の申告等の内容を自主的に変更するもので、更正・決定とその性質を異にする。
 (注)自己に不利益に変更する場合であっても、申告に係る課税標準に誤りがあるが、申告に係る納付すべき税額は誤っていないような場合には修正申告は認められない(武田昌輔編『DHCコンメンタール国税通則法』1286頁)。
 
2.修正申告の法的性格
 修正申告といえど、申告納税方式における一種の納税申告として、租税債務を具体的に確定することにかわりはない。
 この納税申告の法的性格については、意思表示説、通知行為説などに見解は分かれている(新井隆一「申告行為の法的性格」租税法研究5号21頁、占部・前掲八幡大学論集112頁他)。通説は、通知行為説を採り、課税標準及び税額等の基礎となる要件事実を納税者自身が確認して一定の方式で租税債務の内容を具体的に確定してこれを課税庁に通知する私人の公法行為であると捉えている(田中二郎『租税法三版』200頁)。この私人の公法行為とは、公法関係において私人のなす行為であって、公法関係における行為であるという点で私法行為と区別され、私人の行為であるという点で行政行為と区別される。
 そこで、納税義務は税額算定の基準時期において抽象的に納税義務が成立し、課税要件を充足する具体的内容の認定と確定があって具体的な納税義務が確定する。納税申告とは、この具体的な認定と確定の行為で、私人が納税義務者として租税債権債務関係の実現に関与協力することによって、具体的な納税義務の確定という公法上の効果を付与し、単なる私的行為ではないとされている。このことは、後述する修正申告後の民法上の錯誤(95条)の適用に影響を与える。
 これに対して意思表示説は、特定の私人が、納税申告者は、特定の要件事実が存在するときに、自己の納税義務を確定しようとする効果意思に基づき、課税庁に表示することにより租税債務の履行責任が発生すると捉える。この説によれば、申告は納税者の意思表示の現れであり、民法総則の適用が可能になる(この納税申告の法的性格については、垂井英夫「修正申告の勧奨と税理士の権能」税理38巻10号16頁に整理されている。)。
 (注)納税申告の法的性質については、通知行為説、意思表示説の他に確認行為説や複合説などがある。
 
3.修正申告の効果
 まず、修正申告書の提出により、その申告に係る納付すべき税額が確定するとともに、納税義務の消滅時効の中断の効果が生ずる。そして、税額の増加を目的とするこの修正申告書が提出されても、以前の申告、更正・決定により確定された納付すべき税額に係る納税義務には影響を及ぼさない(通則法20条)。
 また、修正申告書の提出が、その申告に係る租税について調査があったことにより、それについて更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、過少申告加算税は課されない(通則法65条5項)。
 
4.義務的修正申告
 修正申告は、一般的には前述のように納税義務者が自発的に行うものであるが、例外的に、法律上でその提出を義務づけられているものがある。これを義務的修正申告という。
 この義務的修正申告は、修正申告を一定の期間内に提出すれば、期限内申告と同様に取り扱われる。すなわち、その義務的な修正申告をその提出期限までに提出したときは、期限内申告と同様に、過少申告加算税、延滞税等は賦課されない。これは、この制度が本来の期限内に正確な計算による申告ができないと見込まれる一定の場合の救済方法で、その後正確な計算が可能となったときに申告をするものであることから、納税者の責に帰さない事由について、義務違反に対する制裁的意味合いの強い附帯税を課すことが適当でないと考えられるからである。
 義務的修正申告の主なものとしては、所得税関係では特別控除の対象となる資産の取得後に、適用事業の用に供しなくなった場合にはその事由等の生じた日から4ヶ月以内に修正申告書を提出すべきことを定めたもの(措置法10条の3第11項、同法10条の4第11項、同法10条の5第11項など)、譲渡所得の課税の特例を受けた者が、その要件に該当しなくなった場合あるいは代替資産や買換資産等の取得の場合の課税の特例が受けられないこととなった場合にはその事由等の生じた日から4ヶ月以内に修正申告書を提出すべきことを定めたもの(同法31条の2第7項、同法33条の5第1項など)等がある。
 相続税関係の義務的修正申告としては、相続税の当初の課税価格の計算の基礎に算入されなかった在外財産等についてその価額が算定できることとなった場合には算定ができることとなった日の翌日から4ヶ月以内に修正申告書を提出すべきこと(措置法69条の2第1項)、特定の公益法人に贈与され、相続税の非課税措置の適用を受けた相続財産が、一定期間を経過しても公益事業のように供されない等のため相続税の課税価格に算入されることとなった場合には、その一定期間が経過した日の翌日から4ヶ月以内に修正申告書を提出すべきこと等がある(同法70条の2第1項)。(岸田貞夫『現代税法解釈』401頁に詳しい。)
 なお相続税法では、期限内申告書又は期限後申告書を提出した者や決定を受けた者は、遺産の分割、相続人の異動、遺留分による減殺請求、遺言書の発見又は遺贈の放棄により、既に確定した相続税額に不足が生じた場合には、修正申告書を提出することができるとされている(相続税法31条)。ただし相続税額の減少する他の相続人から更正の請求が出された場合には、相続税額が増加する相続人から修正申告書の提出がされない場合には、税務署長は、その者に対して更正処分をすることになり、この場合にも結果的には修正申告が強制されるる。
 
 
U 課税庁からの慫慂による修正申告
 課税庁は、机上調査及び実地調査により課税標準等又は税額等を増額修正する場合には、できるだけ更正・決定処分による方法を避け、納税者に修正申告を慫慂し“更正に代わる修正申告”を求めている。ここでは、修正申告の慫慂についての法的整理及び慫慂に応じた納税者の権利救済等について述べる。
 
1.修正申告の慫慂
 現場で慫慂による修正申告が多い理由は、課税庁が課税処分を行おうとすれば、その根拠となる資料を確実に収集しておく必要があること、青色申告者に対する更正の場合には、厳格な理由附記が要求されるのに対し、修正申告による場合には、課税事務負担を軽減することができること、修正申告がなされても、課税庁の更正処分等の権限が消滅するわけではないこと、修正申告は、納税者の同意の基に行われることから、申告をめぐる紛争の発生可能性は更正処分より減少することなどのメリットが考えられる。
 また納税者にとっても、修正申告をする方が、更正を受けるときより、加算税の計算において有利な取扱いを受ける場合があること(課税の公平での疑問はあるが)、更正処分よりは、修正申告の方が納税者の信用に傷が付かないこと、税務調査がそれにより終了すること等が挙げられている。(理由については、岩崎政明「修正申告の慫慂の態様とその対応」税理32巻3号8頁及び首藤前掲書74頁に詳しい。)
 
2.法的根拠
 修正申告の慫慂は、実体法上に規定されたものではなく、法的な根拠が定められているわけではない。修正申告の慫慂自体の作用は、納税義務者に対して、いったん確定した課税標準等又は税額等についてその誤記・計算ミス等の是正や法律の規定に従った内容への是正を促すものに過ぎず、事実上はともかく、法律上の強制力を伴わないことから、法的根拠を必要とするまでのことはないと考えられている(岩崎 前掲書10頁)
 
3.修正申告後の救済等
  納税者が修正申告に応じ、その後その税額等が過大であったと気づいても、不服申立や取消訴訟で争うことはできず、原則、現行法上の救済手続きとしては更正の請求による他ない。更正の請求による場合には、原則として法定申告期限から1年以内とされ(通則法23条)、慫慂を受けて修正申告をした場合には、既に期限が経過している場合が少なくなく、十分な救済が受けられないことにもなりかねない。(三木義一「修正申告とその権利救済」税理29巻4号16頁)
 それでは、更正の請求以外で、修正申告をした納税者の救済方法は無いのか、あるとすればその適用範囲はどこまでかを検討する。
(1)錯誤に基づく修正申告の救済の可否
 修正申告書の提出後に、その申告に過誤があった場合の是正手続として、申告の錯誤による無効の主張が認められるかがしばしば問題とされる。特にその修正申告が不適切な慫慂によりなされた場合に、申告後、納税者が民法の錯誤(95条)による無効を主張できるかが問題とる。
 この錯誤の適用の可否についての対立は、最高裁昭和39年10月22日判決(民集18巻8号1762頁)で、錯誤の適用要件の判断基準が示された。
 この事件は、長男である相続人が、共同相続の制度を知らずに、家督相続によるものと考え、相続財産は、全て自己が相続したと誤解し、相続財産(山林立木)の売却による所得を全て自己の所得とした期限内申告は錯誤により無効であると争われた。
 それに対して、控訴審(大阪高裁昭和38年1月22日判決)では、「納税義務者はその自主的判断によって申告した所得金額につき拘束を受け、たとえ申告所得額が実際の所得額より過大であることを後日発見したとしても、前示期限内に更正の請求をなしその更正決定を受けない限り、所得額につき申告と異なる主張をなしえないものであること、即ち、確定申告書記載の所得金額は不可争的のものとなることが明らかで、納税者の意思と利益は国家の徴税目的によって制限されたものと解することができるから、確定申告書記載の所得金額が誤算その他申告書自体の記載から明白な誤りであることが看取される場合のほか、所得額について錯誤を理由に、申告行為の無効を主張することは許されないものと解するのが相当である。」と判示した。
 そして上告審の最高裁でも、「ところで、そもそも所得税法が右のごとく、申告納税制度を採用し、確定申告書記載事項の過誤の是正につき特別の規定を設けた所以は、所得税の課税標準等の決定についてはもっともその間の事情に通じている納税義務書自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に定めた場合に限る建前とすることは、租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるものである、、納税義務者に対しても過当な不利益を強いる虞がないと認めたからにほかならない。従って、確定申告書記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白且つ重大であって、前記所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、所論のように法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは、許されないものといわなければならない。」とした理由を持って錯誤による是正を認めなかった。すなわち、納税申告に対する錯誤の主張は、“客観的に明白かつ重大”で“納税者の利益を著しく害する”と認められる“特段の事情がある場合”でなければ認められないこととなり、その後の下級審の判決に踏襲されている。
 なお、この昭和39年の最高裁の判決について、納税申告が抽象的租税債務を具体化させる行為であることから課税要件事実に合致する申告であることが重要であり、事実に反する申告であっても有効と扱うのは、租税法律関係の早期安定を重視するからに他ならないとしたうえで、その場合に、租税法律関係の早期安定の要請が付着しているが故に、性質上当然に錯誤の主張が認められないとする説明より、更正の請求制度を設けることによって、錯誤の場合を含めて、申告内容の納税者に有利な是正に関して制限が加えられているとみるべきで、納税申告が大量的、回帰的な確定手続きであることから、更正の請求制度を設け納税者の利益保護の要請と行政上の要請とを調整すること自体は合理的であるとした評釈がある(碓井光明「納税申告」別冊ジュリスト123号、行政判例百選U(第三版)260頁)。明解な示唆を与えられた。しかしその“調整”が合理的であるかは、別途検討すべきであろう。
 
(2)税務職員の誤った慫慂による修正申告の救済
 前述の昭和39年の最高裁による判示の結果、修正申告書による錯誤の適用は極めて限られたものになっているが、“特段の事情がある場合”等の場合には錯誤による無効が認められることによって修正申告の救済の可能性の余地を残した。例えば、誤った慫慂に基づく修正申告について錯誤が認められたものとしては、税務署係官が事実関係の評価に関する誤った判断に基づき修正申告書の下書きを作成し、申告を強く指導したため、納税者が誤りに気付かず過大な修正申告をしたと認定し、修正申告書の記載内容の錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法定の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に該当するとして、修正申告のうち過大申告部分について納税者は修正申告の無効を主張できるとしたものがある(東京地裁昭和56年4月27日判決行集32巻4号661頁)(注)。
 しかし、昭和39年の最高裁判決の錯誤の適用要件に関する基準をそのまま、修正申告の慫慂の場合に当てはめることに関しては疑問も少なくないことから、誤った修正申告の慫慂がなされたことに納税者に責められるべき点がなく、修正申告の慫慂と修正申告書における過誤の記載の間に因果関係が認められれば、それで「特段の事情」の要件は基本的に充足され、あとは過誤が「客観的に明白かつ重大」であるかによるべきとした見解もある(首藤・前掲書72頁)。
(注)その他、国税局係官の強い申告指導による確定申告書の提出において錯誤を認めたものとして京都地裁昭和45年4月1日判決(行集21巻4号641頁)があり、修正申告での錯誤の主張が認められたもの及び認められなかった裁判例としては、垂井 前掲書(17頁以下)に紹介されている。
 
 
V 実務上の対応・検討
 
1.税務調査と修正申告の問題
 税務調査の結果としては、その申告等に係る課税標準等及び税額等に非違がないとして是認される場合、軽微な誤りにつき今後の指導事項として指摘を受ける場合、更正等の課税処分を受ける場合及び慫慂による修正申告書を提出する場合がある。そして、そのうち申告内容に変更をきたす場合には、実務上は殆ど修正申告によっている。
 その理由は、前述した通りであるが、納税者の代理人としての税理士の立場で考えると、早期の解決を望む場合が少なくない。売上、売掛金等の益金の計上漏れや損金処理された資産の是正の場合などでは、更正等の課税処分を待つことなく、修正申告により納税を早期に完了することができれば、それだけ延滞税等の負担を軽減することができる。何よりも、納税者は税務調査を受けることによって、精神的・時間的に負担に感じている場合が多く、税理士には、このような納税者の負担の軽減を図るべき職責があることも確かであろう。そこで早期の解決を図るために、修正申告の慫慂に応じる場合も少なくない。
 
 問題となるのは、納税者と課税庁の法解釈での相違があった場合である。納税者が自己の主張を貫くために、調査が長期に及び、執拗な反面調査を受けることを覚悟しなければならない場合も少なくないばかりか、時として“必要な調査”の域を超える場合もないとはいえない(注)。これを回避するための安易な修正申告の慫慂に応ずることに問題がある。
 課税庁側からの意見として、「税務調査によって非違が発見された場合、申告税額の増額更正や不申告税額の決定等が行われることになっているが、実際にはほとんど納税者自身の修正申告によって処理されていた。その結果、不服申立てや訴訟の件数は少なく、大量の課税案件が円滑に処理されていたのである。このような処理方式は実務的には好ましいだろうが、修正申告に頼りすぎると納税者に対して過度に妥協的になる懸念があるので、公平な課税の実現のために、もっと更正決定を行っても良いのではないかと思った。」と述べられている(黒田東彦「行政と法学教育(上)」ジュリスト1008号79頁)。これは若くして税務署長になられたときの現場から受けた印象を記されたものであるが、税法という行政法の一分野に独立した公正な立場に身をおく税理士としても自戒を持って耳を傾ける必要があろう。しかし別の側面から修正申告書の提出に至るまでの経緯を考えるとき、税務調査を含めた税務行政手続きの明瞭・明確な指針が納税者に示されていないことによる場合も少なくない。
(注)税務大学校教授内村満夫「日税連税制審議会答申における『税務署長の裁量権』『加算税課税の基準』についての疑義」(税理15巻4号63頁)では、税務署長との裁量権に関連して「もちろん、税務職員としても万能無過失であるわけではない。したがって、個々の事案の処理について個別的にみる場合には、そこに判断の誤りもあり得ないわけではないであろう。」としている。
 
2.修正申告後の事後救済の問題
 上述のように、慫慂によりなされた修正申告書の提出後の救済の道は、通常法定申告期限から1年しか認められていない更正の請求以外では、錯誤による救済の方法はないわけではないが、実務上で錯誤が適用される余地は少ない。それは、修正申告の法的性格として、通知行為説が通説となっていることからもうなずける。
 ただ、前述の昭和39年の最高裁判所の判決以後、税務職員の納税者に対する誤った指導による錯誤を認めた事例もあることから、このような事例の場合には、救済が図られるつつある感もしないことはないが、税理士の関与していない場合には、納税者が積極的に錯誤の主張をすることができるかは、疑問がないわけではない。そして、納税者から、そのような誤った指導による錯誤の主張があったならば、課税庁としても積極的に減額更正すべきであろう。
 一方、税理士が関与して申告に錯誤の主張ができるかは、原則として、認められないと解するべきであろう(京都地裁昭和45年4月1日判決行集21巻4号641頁など)。何故ならば、納税者が税理士等の専門家に税務代理・申告を依頼する理由は、その高度な専門的な法律実務を期待しているからに他ならず、適正な納税義務の実現を図るべき税理士が、その過失が明確な慫慂に基づいて修正申告を行うことは、依頼者の期待に応えるべき職責を果たしたことにはならないと考えられるからである。そして、この場合には、税理士に対する損害賠償の請求原因となることもある。ただし、税理士が修正申告の慫慂に反対したが、納税者が税理士の進言にに従わず、税務署の求めに応じて修正申告をした事例でも、税理士の助言・指導の不適切により損害賠償が請求されるいる(東京地裁平成2年8月31日判決、判例タイムズ751号148頁)。
 
おわりに
 小見を省みず、修正申告の慫慂について若干、思うところを述べさせていただいた。
 “更正に代える修正申告”において、問題となるのはその一部で、大半は申告納税制度を支える一翼を担い、効率的な税務行政に寄与していることから、“更正に代える修正申告”は、一概に否定されるべきものではないと考えている。
 もちろん税理士等の専門家は、課税庁とのコンフリクトにおいて、シャープ勧告にいう上手な取引者(a skilled negotiator)になってはならないのはいうまでもなく、租税法等の法理論を基礎にした純粋な法的交渉の場でなければならない。自戒を込めて。
 
    

   Last Updated:14/JAN/2000