この事例は、最高裁昭和60年1月31日判決(家裁月報37.8.39 家族法判例百選60、判例タイムズ747.166、『財産法と家族法の交錯』他)からとったものです。税法の解釈では、税法のみではな、関係する私法などの法律も重要になってきます。この特集のポイントは、民法上の判断ではどうなっているかです。ここでは、税理士の立場から一般的な内容となっていますが、民法、親族法上の問題点を考えて頂ければ幸いです。原典では、松本弁護士が、税理士が知っておくべき民法上の考え方を書いておられますので、是非そちらをお読みください。。

内縁の妻に対する死亡退職金−法的性格とその課税−                       H11.2.22 税理士 中江博行
Question
被相続人Aは、生前,Bと事実上の婚姻をしておりました。しかしBは伯父の養子となっているので、伯父に他に適当な承継者ができるまでは婚姻の届けはしない旨Aと合意しておりました。他方、Aには実子がなかったためBと相談の上Cと養子縁組をしました。
その後、Aの死亡によりAの勤務先では、「遺族にこれを支給する」とした退職給与規定によりBに退職金を払うことにいたしました。これに対してAの唯一の相続人であるCは、この死亡退職金の受給権者は自分だとして主張するつもりでおります。BとCは、税務上どのような課税がなされるのでしょうか。また死亡退職金の法的な性格についてご教示ください。
 
(解説)   
1.死亡退職金の税法上の性格
 死亡退職金については、遺族(特定の受給権者)固有の権利(財産)か、あるいは相続財産に属するかについては学説、判例上で古くから争われてきた。それは、死亡退職金の性格が、長年の勤労に対する使用者からの功労報償、遺族の生活保障や賃金の一括後払い的な性質を備えていることなどから、一律に決められないと考えられるからである。
 税法では、通常死亡退職金については本来の相続財産ではないという立場をとっているが、支給を受ける死亡退職金(次項2)についてはも、実質的に相続又は遺贈による財産の取得と変わらないことから、生命保険金等(相法3条1項各号)と同様に相続財産とみなして課税の対象としている。 
2.みなし相続財産
 税法は、被相続人の死亡により相続人等に支給される死亡退職金(退職手当金、功労金その他これに準ずる給与)で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものについては、死亡退職金を取得した者が相続又は、遺贈により取得したものとみなして課税財産に取り込むこととしている(相法3条@二)。
 財産を取得した者が相続人であれば相続により、相続人以外の者であれば遺贈により取得したものとみなされる。これは、相続人以外の者に対する遺贈については債務控除(相法13条)や相次相続控除(相法20条)が適用されないこととの権衡上明確にしたものと思われる。
 この場合の退職手当金等には、金銭のみではなく現物も含まれる。また、それら金品が退職手当金等に該当するかどうかは、退職給与規程等で定められている場合には、その定められたところにより、その他の場合には、その被相続人の地位、功労等を考慮し、被相続人の雇用主等が営む事業と類似する事業における被相続人と同様な地位にある者が受ける額等を勘案して判定するとされている(相基通3-19)。この通達は、法人税法における過大な役員・使用人退職給与(法令72条、同72条の4)と同旨な規定付けをすることにより相続税法における退職手当金等においても実質上被相続人の役務の対価等として相当な金額であることを求めている。
 本事例の場合には、退職手当金の受給者が事実婚関係にあるBであるか民法上定められた養子のCであるかは争いが発生しているが、いずれにしても当該死亡退職金はみなし相続財産として相続税の申告しなければならない。Bが遺贈により取得したとみなされれば、相続開始前3年以内の贈与財産の加算(相法19条)、相続税額の2割加算(相法18条)の適用を受けることになる。
 
3.非課税の取扱い
 前項3のように一定の退職手当金等はみなし相続財産として課税対象とされているが、その財産の性質や政策的な見地から一定の金額を非課税として非課税限度額を定めている(相法12条@六)。
 この非課税の取扱いは、みなし相続財産を相続人が取得した場合に限られ、民法上の相続人以外の者、相続を放棄した者や相続権を失った者が退職手当金等を取得した場合には適用はない。そしてこの非課税は、500万円に相続人の数を乗じた金額が限度とされている。
 Cが本件の死亡退職金の受給権者となればこの非課税の適用があるが、Bが受給権者となれば、Bは相続人ではないためこの非課税の適用を受けることはできない。
 
4.課税関係
 死亡退職金を相続財産とみなして課税財産に取り込んだ趣旨は、生前退職により退職金が支給されていたならば、本来の相続財産として課税されることとの権衡上から相続財産とみなされているが、被相続人の生前退職であってもその退職手当金等が被相続人の死亡前に確定せずに、死亡後(3年以内の制限はあるが)に確定したものについては、みなし相続財産の規定をうけることになる(相基通3-31)とされている。従って、ここでは死亡退職金に限定したが、相続財産とみなされる退職手当金等は死亡退職金に限らないことに注意しておかなければならない。
 但し被相続人がうける賞与の場合には、死亡後に確定したものでも本来の相続財産に含まれる(相基通3-32)。すなわちみなし相続財産とされず退職手当金等の非課税の適用はないこととなる。しかし、本来の相続財産に取り込まれても所得税としての課税はなく、相続税のみが課税されることとなる(所法9条@一五、所基通9-17)。
 なお、相続開始後3年を経過して支給が確定した退職手当金等名義による支給は、みなし相続財産としてではなく通常受給者の一時所得として所得税が課税される(改正前の昭和22年旧相続税法において死亡後4年以上を経て確定したものとした事件について最高判昭和47年12月26日、民集26卷10号2013頁がある。)。
 
5.税務上の問題
 死亡退職金が遺族固有の財産だといっても、その受権権者が決して明確であるわけではない。実務上では、本件のように相続人以外の者が受給権者になるのかどうかの争いとなる場合もあるであるであろうし、就業規則等で死亡退職金の受給権者を「相続人」とするとのみ定められている場合には、相続財産として注意的に規定したものと解すべきか、相続人に相続分に応じた遺贈があったものと解すべきなのか迷う場合も少なくない。また、被相続人が生存中に遺言又は使用者に対してした予告によって死亡退職金の受給権者を指定した場合にはそれが認められるのかも問題となろう。
 これらについては、民法上等の学説・判例の進展をみながら税法上で対処するほかはないであろう。
 本事例の場合にも、民法上の判断がなければ、ただしい税務申告をすることはできない。
 最後に、ここでは事実上の婚姻関係にある内縁配偶者をとりあげたが、この様な内縁関係にある者も労働基準法では遺族補償を受ける配偶者の括弧書きとして「婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。」(労基規則42条)と規定しているが、税法上で、今まで通り事実婚と法律婚との差異を設けることが合理的であると言えるのかについても検討されなければならない。
               
                            以上

    

   Last Updated:18/APR/1999