これは、「税理」の99年3月号に掲載されたものです。
 はっきり言って、つかみ所のない内容になってしまいました。ポイントがなく、何が言いたいのか判らないと思います。
 早い話。納税者が支払の事実を立証しなければならないよ。そのためには間接資料などが必要になるよ。判決等でもそういっているでしょう。そんなところです。
 消費税はあえて入れませんでした。それはまた別の大きな問題ですので、「おわりに」でほんの少し書いておきました。消費税法では、最終消費者が負担する税だとはどこにも書いていません。別の法律で転嫁できるとしているだけです。裁判所は、適正に転嫁しろと言っていますので、すべての法人で5%となるわけではありません。理論と実践の矛盾です。良く消費税相当額などと言いますが、現実には計測不能です。
最後で、違法な支出について今後どうなるか判らないと書きました。一般には米国の「通常かつ必要」の通常が入っていないから違法な支出も、違法な収入も入ると言っています。通常 ordinary がその様に読むのかは理解に苦しむところですが、違法な収入、違法な支出も課税に取り込むのは間違いだと思っています。片やその様な行為を否定しながら課税ではそれを認めるとは矛盾しています。国際化し一体化する経済、租税構造の中で変革が余儀なくされるのではないでしょうか。
 このテーマは、やはり具体的、実務的な内容の方がいいのかも知れませんが、私の少ない経験では十分なものは書けませんし、平川先生の論文が出ています(税理40.6.54)ので、そちらを見られた方がいいかも知れません。
 最後に、本稿については、関東学院大学の租税法の岸田貞夫教授、民事訴訟法の本田耕一教授にご指導いただきました。本当に有り難うありがとう御座いました。
 また本田先生からは、当初原稿での“疎明”についての私の誤った理解を指摘していただき、その部分については直しております。“疎明”は、原則として、手続き的な問題、あるいは派生的な問題についてはこれでよい場合もあるようですが、原則は、通常証明が必要となるとのことです。税理士が”疎明”をい使用しているときには間違ってもちいている場合が少なくないのかも知れません。これから注意いたします。もちろん、私の能力不足で岸田先生、本田先生のご指導が十分に理解できてないことに対してはすべて私の責任であることには代わり有りません。

金銭等による支払事実の有無をめぐるトラブルと留意点      H11.1.25作成
                               中江 博行
 
はじめに
 法人が日々行う取引のうち、何らかの理由によって領収書、請求書等その取引を立証するための書類である証憑が得られない場合や証憑があってもその事実に疑義をもたれる支払が発生することがある。例えば、出所先不明の商品を格安で仕入れる場合など相手先から領収書の発行を拒否された取引や受け取った領収書に書かれた名称、住所等が偽名、架空であった場合があるが、これらが税務調査において調査官からその支払事実を否定され、使途不明金であるとの指摘を受けることがある。特に、長期化する経済不況期にあっては、経営者は誰しもコストダウンを図るため、あるいは信用取引による不安材料を少しでも減少させるため、現金取引を求めるようになる。現金取引では、銀行振込や小切手、手形による決済より一般に資金の流れが把握しにくいことから、今後、支払事実の有無が問題になるケースが増えると思われる。
そこで、本稿では、支払事実の有無をめぐる税務上の問題点について検討する。ただし、法人のサイドでは明らかに支出したものについて、税務調査等で否認されるのはどのような場合か、また、否認されないためにはどうしたらよいか等について裁判事例等を参考にして検討するのであって、虚偽の支出や使途不匿金(措置法62条)については、本稿では採り上げない。
 
T 法人における支払事実と税法上の取り扱い
 法人における支払事実が問題となるのは、その支出が法人の原価・費用等として損金の額に算入されるかどうかにより納税額に影響がでるからである。支払事実が否認されれば、法人税の課税標準が増加するばかりでなく、場合によっては役員賞与として当該役員の所得税額も増加するなどダブルパンチを受けることにもなりかねない。
 法人税法上における損金の意義については、同法22条3項において、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、別段の定めのあるものを除き、@「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」、A「@に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額」および、B「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」を規定している。ここにいう「債務の確定」とは、債務の発生が確実で、その金額が確認できることを意味すると解されている(金子宏『租税法第六版補正版』249頁)。すなわち、支払事実が、このいずれかに該当する場合には、損金経理要件を法文に定めている場合を除き、たとえ損金経理がなくても、損金の額に算入される。すなわち支払事実の存否を判断する事実認定は、法人にとってはきわめて重要な問題になるのである。
 
U 事実は事実
1.税務上の事実認定
 事実認定とは、一般には訴訟上(民事・刑事)の用語であり、民事訴訟や行政訴訟においては、裁判官は、事実(要件事実)の存否を確定するための事実認識のプロセスである事実認定(顕著な事実以外の事実に対して)を適正に行うべきことが求められる。そのため当事者は、証言、鑑定意見、供述や文書の記載内容などの証拠資料によって証明ないし疎明によって事実を明らかにしなければならない(民訴149条、行訴法24条)。
 一方、税務上では(租税)行政庁との対立の場合において用いられる場合が多い。すなわち、事実認識が相違しなければ事実認定が問われることはない。税務署長の行う更正・決定、国税不服審判所が行う審判や裁判所に移して行う訴訟のそれぞれの場で事実認定が行われる。
  税務上のそれぞれの場で行われる事実認定も訴訟における場合と同様に、納税者も自己の主張する事実が、事実であるとの確信を抱かせるにたる証拠の提出(証明)を求められるが、たとえ何らかの事情によってそれができない場合であっても、合理的な疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信よりは低いが一応確からしいとの推測を抱かせる程度の証拠の提出(疎明)は必要である。自社外から発行を受けた外部証拠資料である領収書等のない取引などで、事実関係に疑義を生じさせる場合には、内部証拠資料による間接事実、補助事実を日常より積み上げておかなければならない。そして、それら証拠は、税務調査で、不服申立で、そして訴訟段階で明らかにしなければ、事実は事実だというだけでは、それに反する事実認定は覆せない。
 国税通則法では、課税処分取消訴訟においては、その訴えを提起した者(納税者)が必要経費又は損金の額の存在その他これに類する自己に有利な事実について、課税処分の基礎となった事実と異なる旨を主張しようとするときには、自己の責めに帰すことができない理由による場合を除き税務署長等が、その事実を主張した後遅滞なくその異なる事実を具体的に主張し、併せてその事実を証明する証拠の申出をしなければならない(通則法116条1項)とされている。この条項の解釈については争いがあるが、通説は、証拠申出について規定しているもので、税務訴訟における立証責任の配分の原則を定めたものではないと解されている(DHCコンメンタール『国税通則法』5135頁)。
 
2.立証責任
 ここで、税務訴訟における立証責任について若干触れておく。
 税務訴訟における立証責任については、通説と考えられる見解においては、民事訴訟における債務不存在確認訴訟に準じて、納税者は租税債務の不存在を主張すれば足り、租税債権の存在を主張する行政庁が債権の存在を立証すべきであるとされる(金子宏 前掲書664頁)。この点について判例は、未だ固まってはいないが、所得の存在については、原則として行政庁が立証責任を負うとしたもの(最高判昭和38年3月3日訟務月報9巻5号668頁)、いったん申告書を提出した以上は、確定申告書記載の所得金額が事実に反するとの主張・立証がない限り、その確定申告書にかかる所得金額を正当なものと認められる(最高判昭和39年2月7日訟務月報10巻4号669頁)、行政庁の認定額を超える多額の必要経費の存在を主張しながら、その内容を具体的に指摘せず、行政庁がその存否及び金額について検証の手段を有しない場合は、納税者が立証責任を負うとしたもの(広島高岡山支判昭和42年4月26日行裁例集18巻4号614頁)、本稿の支出事実の問題の一つである必要経費については、必要経費の主張が否認されたときは、納税者が必要経費を支出した事情を一応立証しなければならないとしたもの(仙台地判昭和50年6月23日訟務月報21巻9号1947頁)と行政庁に立証責任があるもの(徳島地判昭和33年3月27日行裁例集9巻3号433頁)とがある。また、「課税標準から控除されるべき必要経費等は、納税義務者の側で立証すべきが当然である。」とした見解もあり(田中二郎『租税法(新版)』354頁)、いずれにしても行政庁は、支払事実の疑がわしさを提示し、指摘してくるとであろうことから、当初より立証責任は納税者にあるとして、直接証明資料が無い場合には、疎明できる程度の間接資料、補助資料の確保は必要だということになる。
 
V 裁決・裁判例
  存否の争そわれた支払事実が認められた事例について、その理由を見ておくことにする。
(1)自社の商品見本市に出席した得意先支払った「車代」を行政庁が否認した事例(昭和46年2月13日裁決、東国裁例集3−1)
 この様な「車代」は、その性格から社会慣習上領収書等の発行を受けることは通常行われいないことから、やむを得ないとして、領収書等のない支出であっても社会慣習上合理的妥当なものであるときは、その支出を認容する事が妥当だとしている。
 この事例では、領収書はないが、支出先は明らかであり、その支出についても関係書類などから信憑性が認められた。また、支出額についても、業界の慣習から過大ではないとして、間接的・補助的事実から支払の事実を認容している。
 
(2)上様扱いの仕入金額が実在の取引だとされた事例(昭和60年9月13日裁決、裁決事例集30集126頁)
 仕入金額を「上様分等」として記帳したものが、支出を裏付ける客観的資料がないとして損金算入を認めず更正処分等をした事例につき、その法人の作成した入出庫帳、集荷明細書、産業物受託書、メモ書等の各記録書は、その作成の経緯、状況及び各記録書間相互の関連性からみてその記載内容に信憑性が認められるとした。
 
(3)運送会社の送り状、商品棚卸表等から支払の事実を認めた事例(平成5年12月21日、裁決事例集46集148頁)。
  この事件は、架空仕入であるとの課税庁の認定に対して、審判所は次の周辺資料から架空仕入の認定を取り消して、支払の事実を認めた。
 @ 運送会社からの送り状及び請求書によって商品の納品が認められる。
 A 期末商品棚卸表で、架空仕入と認定された商品が在庫商品となっている。
 B 商品及びその商品の品質表示票を写した写真から、その品質表示票に記載された商品番号と架空仕入と認定された仕入商品の商品番号が一致する。
 
(4)記帳された取引先が存在しないからと言ってその取引が架空仕入であると認定するのは適当ではなく、その他の諸点をも検討して取引の有無を総合判断すべきだとした事例(山口地判昭和51年11月29日訟務月報22卷13号3034頁)。
 この事件は、漁網の販売業者が、中古網の販売のため相当量の中古網を仕入れ、その仕入先を仮名にした取引について行政庁は架空仕入だとした。これに対して裁判所は、まず立証責任が行政庁、納税者のいずれにあるかについては、実額課税にあっては、一般に所得金額、経費についてまず行政庁に立証責任があるが、本件の場合には納税者がその仕入を仮名にしてその真実の所在位置も明らかにせず、行政庁の調査にも非協力的である場合、行政庁が独自にその取引先を探し出し、その取引の状況を調査確認することは著しく困難である場合には、納税者がその取引が事実であるという事実を積極的に立証すべきであるとした。また、記帳された取引先がその名義のものとしては存在しないことのみをもって、その取引が架空であると断定することは相当ではなく、関係帳簿等の証拠について、納税者の当時の中古網取引状況、その経理状況と記帳方法、他の仮名にした取引の有無、仮名にした取引先でその取引の状況が確認されたか否か、関係帳簿、書類について当初からの脱税目的でなした偽造、変造等の作為の存否、他の取引の記帳方法と争点になった取引先とのそれとの相違の有無、他に支出費目のないものを操作してその取引として記帳したか、また取引先明を明らかにしない事由等の諸点検討し、その取引の存否を総合判断するのが相当であるとしている。
(5)小型棒鋼の製造販売業を営む法人の行った通常の取引ルートを経ない臨時の出合取引による原材料の仕入について、記帳された仕入先が現存しないため仕入先不明であるというだけでは架空仕入れとすることはできないとした事例(広島地判昭和45年9月24日訟務月報17卷2号372頁)
 裁判所は、次の事実をもとに支払事実の有無を検討している。
 在庫管理のため、材料の移動を示す日報制の各工場材料受払簿(外部から工場への材料の搬入状態を示す)、剪断材受払日報(工場内の剪断部門への材料の移動を示す)、圧材受払簿(工場内の圧延部門への材料の移動を示す)をそれぞれの担当者が記帳しており、各記帳にさしたる不自然さは見られず、各帳簿の形状から操作を加えることが比較的困難であることや、検量の際にワイヤーの重量を材料の重量に誤って加えるなどの無作為性からみて、各帳簿の信用性が比較的高いこと、仕入の状況がさほど不合理ではないこと、その場限りのスポット仕入の場合、相手方が常に事実あるいは正確な住所氏名を表明するとは限らず、また、仕入れ価格が商社取引のものより、やや高価であるとしても、継続的取引と一定時期の需給関係に左右されやすいスポット取引との差を考慮すれば、一概に高いとも解されないことから支払事実を肯定している。
 
W 事実の立証
 それでは、事実の立証はどのようにすればよいのであろうか。
 通常、領収書、請求書、納品書等(領収書等)のない支出金については、使途の立証が困難となるため、使途不明金の認定を受ける可能性は大きくなるが、領収書等の証拠資料(証明資料)が存在しないことを理由に安易に使途不明金の認定が行われるわけではなく、事実判断の問題で事実上の推認が働くかどうかである。逆に領収書等の証拠資料があるからといってそれだけで支出の事実が明らかとなる訳ではなく、あくまでも事実として存在したかどうかということになる。
 会社が行う取引で領収書等の発行を受けられなかった取引や、領収書等を受けることができてもそれが仮名であり、仕入事実の信憑性が問われる場合が無いことにより支払事実の有無が問題とされる取引についてあげてみよう。
  1.領収書等が発行されない場合
   イ その性質上、慣習上から領収書等が受けられないもの
      祝儀や香典などの慶弔費
      取引先の役員や従業員に支払う車代、謝礼金
   ロ 機能上から領収書等が受けられないもの
      自動販売機からの物品・チケットの購入
   ハ 支払先から、積極的に領収書等の発行を拒否されるもの
      総会屋への謝礼金などの違法な支出やバッタ取引などで支出先が領
      収書の発行を拒んだ支払い
  2.領収書等はあるが、支払事実に疑義をもたれる取引
      住所の定まらない労働者などに支払う給与など
      商品券、プリペードカード等の購入業者の購入先やスポット仕入れの仕入先で、その購入先等の相手先が実存しなかった場合
 裁判例等で見てきたように、納税者は、領収書等の直接外部資料がない場合には、それに代わる内部資料等による証拠によって証明・疎明しなければならない。取引によっては領収書等がないことが常態で、通常やむを得ないものである場合には、金額が社会通念上相当であり、 若干の補助的間接資料で支払事実が実証される。原価の場合には、収益との対応関係が密接であるため、支払事実の立証は、一般の費用に比べて容易で、作業日報、入・出庫帳や棚卸表などで立証できる場合が少なくない。これら関係資料の多くは、法人の業務上必要な書類であり、商品管理や業務管理の段階で記載すべきものや保存すべきものも少なくないため、通常より注意しておけば十分立証可能であろう。
 領収書等が存在し、当該領収書等に記載された相手先が実存しなかった場合であっても、法人が通常の注意を払っていたことを立証すれば足りると思われる。裁判事例で通常返品等があるのが一般的であるから、記載された所在地、電話番号を確認すべきだとした(広島地判昭和46年10月12日税務訴訟資料63号701頁)のは、継続的な取引でなければ行き過ぎであろう。
 
おわりに
 消費税法においては、仕入税額控除の要件として、通常、領収書等の直接証拠資料がない取引や仮名取引は認められない。これについては、インボイスではなくアカウント方式によることにしていることなどから厳格な要件については批判も少なくなく、今後の学説や判例の発展を注視する必要がある。
 しかし法人税法においてては、支払事実の実存するという事実が認定されれば、領収書等外部資料等が無くても、取引先が仮名であっても原価・費用等として原則として認められる。
 監査証拠においては、通常、法人内部で作成された文書から得られる内部証拠は、その法人外から得られる文書である外部証拠に比べ証拠力は弱いと考えられているが、前記裁決例・裁判例では、やもう得ない理由がある場合には、内部資料から支払事実の信憑性を認めている場合も少なくない。たとえ支払事実が事実であってもそれが立証されれなければ、法人の経理は否認される。日常より、法人は、領収書、請求書、納品書等の保存はもとより、それら書類が得られない場合であっても内部資料である稟議書、日報・業務簿、連絡簿や社内メール等を保存に心がけておかなければならない。
 領収書等のない取引には、商慣習上やむを得ない理由により入手困難な場合も少なくないが、その内には商道徳上批判を受けるものや、結果、相手先の租税回避のための手助けをしているものもある。現時点では、それらについても支出の事実が明らかとされれば費用等として認められるが、企業の社会的責任は、今後、環境・安全に限らず、商慣習・商道徳にも及び強化されることになろう。そうなれば、法改正によるか法理論の変更によるかは別としても、特に社会的批判を受ける取引について支払事実だけで、支出の費用性等が認められるとは限らない。
                                  以上

    

   Last Updated:24/FEB/1999