これは、税経通信(税務経理協会)99年2月号に掲載したものです。
 特殊関係人に対する過大な使用人給与が創設されたのを受けてエッセイを書くことになりました。大体書きながら考えていきますので、元々はそれほど深く考えていたわけではありませんが、書いていくうちに、特殊関係人とは一体何なのか?不相当に高額とはどのように決まるのか?なぜこの制度ができたのか?など結構膨らんできます。
 特殊関係人の認定の内、内縁関係や愛人関係の認定は、果たして税務署職員(実際はこうなりますので)にやらせて良いことなのか非常に微妙な問題です。役員報酬などの不相当に高額についても古くから論ぜられてきましたが、使用人の場合に同一線上にあるとして考えることはできません。文章で書けば簡単でも、実務では複雑な問題が絡みます。類似法人の比準など現実問題としては役員以上に難しい問題です。比準ができたとしての話ですが、ここではあえて触れなかった問題があります。それは比準法人としてサンプリングした給与の最高額との差が過大か?平均額との差が過大かと言った問題です。通常はサンプリングの平均から持ってきますが、この場合に反対意見も有ります。その意見に賛成したいのですが、やはり平均値だろうと思っています。それを書けば理由を明確に書かなければならなくなり、かったるくなって止めました。ただし比準自体曖昧なもので最高、最低などいい加減なモノです。そこで最高額で良いといえるのかは納得できないところです。

過大な使用人給与
                  H10.12.17作成  税理士  中江博行
 
 平成10年度の改正によって、使用人のうちその役員の親族等特殊関係にある使用人に支給した給与のうち不相当に高額な部分の金額について損金の額に算入しないとされた。従来法人が使用人に対して支給する給与は、原則としてその全額が損金の額に算入されるとされていたが、法人の経営者と密接な関係にある使用人に対して支給する給与について、役員に対して支給する報酬の額と同様に「不相当」という不確定な概念を用いて、損金の算入に制限を加えた。過大な役員報酬では、税務調査において、あるいは裁判所において争いが絶えない。その同じ問題が、今後、過大な使用人給与にも起こることが予想されることから、本節では、新設された過大使用人給与の制度について検討を加えることとする。
 
T.過大使用人給与の損金不算入制度の概略と趣旨
 この制度は、平成10年3月法律第24号において、法人税法第36条の2として新設され、内国法人がその法人の役員と特殊関係にある一定の使用人(従業員と同義で、税法上等では使用人といっている。法法35、法基通9-2-25、商法35以下など)に対して支給した給与のうち不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入しないと規定された。
 この制度の創設趣旨は、企業経営者が使用人である配偶者や子供に多額の給与を支払うことによって、法人税の負担の軽減を図るといった問題に対処すべきであるとした平成8年11月の税制調査会法人課税小委員会報告(注)を受けて設けられた。もちろん、この規定がなくても、それが労務の提供の対価として適正額を超えていれば、超過額を否認する余地はあり、税務執行を容易にするために明文規定を設けたとするのが一般的な見方である。
 
(注)税制調査会法人課税小委員会報告
 第2章課税ベースに関する個別的検討、7法人の経費(1)役員報酬等
B このほか、役員報酬に関連し、企業の経営者がその親族等に過大な報酬を支払うことにより所得の分散を図っているといった問題や、簿外の収益から役員に対し定期的な金銭の支払いがある場合の課税上の取扱いを明確化すべきではないかといった問題の指摘がある。こうした問題については、課税の公平を確保する観点から、できる限り法制上の整備によって解決を図ることが適当である。
U.過大使用人給与の損金不算入制度の取扱い
1.給与の範囲
 一般に給与とは、報酬、賞与及び退職給与を指す広い概念であるが、この法人税法36条の2(以下「本条」という)における給与には、金銭で支給するものに限らず、債務の免除等による経済的利益も含まれるが、退職給与及び利益処分等により支給する賞与(法35B)は除かれている。
 
 (注)新設された過大な使用人退職給与の損金不算入の制度(法36の3)については、次節(*頁)に譲るが、類似する点も多いためそちらも併せて参考にされたい。
 
 本条の給与に含まれる「債務の免除等による経済的な利益」については、過大役員報酬の損金不算入を定めた法34条3項の括弧書きと同一文言、同一趣旨であることから、その取扱いを規定した法基通9-2-10及び同基通9-2-11において「役員」を「役員等」と改め、該当させている。
 そこでは、実質的に給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすものとしては、
 @ 特殊関係使用人(本項では以後「使用人」という)に対して物品その他の資産を贈与した場合におけるその資産の価額
 A 使用人に対して資産を低額で譲渡した場合におけるその資産の価額と譲渡価額との差額
 B 使用人の資産を高い価額で買い入れた場合におけるその資産の価額と買い入れ価額との差額
 C 使用人に対して有する債権を放棄、免除したした場合におけるその放棄等をした債権の額
 D 使用人から債務を無償で引き受けた場合におけるその引き受けた債務の額
 E 使用人に対してその居住の用に供する土地・家屋を無償又は低い価額で提供した場合における通常取得すべき賃借料との差額
 F 使用人に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸付をした場合における通常の利率により計算した利息との差額
 G 使用人に対して無償又は低い価額で前記E、F以外の用役の提供をした場合における通常の用役の対価として収入すべき金額との差額
 H 使用人に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの
 I 使用人のために個人的費用を負担した場合におけるその費用の額
 J 使用人が、社交団体の会員となるため又は会員となっているために要するその社交団体等の入会金、経常会費その他その社交団体の運営のために要する費用で、その使用人の負担すべきものを法人が負担した場合の費用の額
 K 法人が、使用人を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約を締結してその保険料の全部又は一部を負担した場合におけるその負担した保険料の額
 などがある(法基通9-2-10)。
 ただしこれら経済的利益が、所得税法上課税されない旅費、通勤手当やレクレーション費用等一定のものであり、かつ、法人がその使用人に対する給与として経理していないものは、本条の給与には含まれない(法基通9-2-11)。
 
2,使用人の範囲
 本条の適用を受ける給与の支給先は、「その役員と政令で定める特殊の関係にある使用人」(「特殊関係使用人」という)に限られ、この特殊関係使用人とは、役員の親族や役員と内縁関係にある者など特殊な関係にある次に掲げる者とされている(法令72の2、平成10年政令105号)。
 @ 役員の親族
  ここにいう親族とは、六親等内の血族、配偶者及び三親等以内の姻族をいい(民法725)、同族会社における同族関係者の範囲(法令4条@一)も同様に解されている。しかし親族概念を、旧民法(明治31年勅令123号)の「家」制度をそのまま引き継いでいる現民法の「親族」と同様に規定する意味は乏しく、税法における立法の趣旨に基づいた範囲で規定すべきであろう。
 A 役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者
  いわゆる事実婚ないし内縁関係にある者を指しているものと思われる。同族関係者の範囲における「株主等とまだ婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」(法令4条@二)とは若干文言が相違し、それがどういう意味を持つのかは明らかにされていないが、通常「内縁」とは、婚姻意思をもって夫婦共同生活を行い社会的には夫婦と認められているにもかかわらず、法の定める婚姻の届出手続きをとっていないため、法律上の夫婦とは認められないが、実質的な夫婦関係にある場合に指称されるが、婚姻の意思を欠く婚外男女関係も少なくないことから、婚姻の意思までは必要としない者も含めたところまで指しているように思われる。ただしいわゆる愛人関係にある者は、この範囲には含まれないであろう。  
 B 役員から生計の支援を受けている者
  これも類似の規定が同族関係者の範囲に「株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの」とされている。この「生計を維持するもの」と本条政令の「生計の支援を受けているもの」との相違は、前者は、株主等から受ける金銭等またはその運用によって生ずる収入をを日常生活の資ての主要部分としている者をいい(法基通1-3-3)、後者は、役員から受ける金銭等を日常生活の資の主要部分としている者に限る必要はなく、役員の愛人などが、その役員から金銭等の給付を受け、その金銭等を生活費に充てる者であれば、「生計の支援を受けているもの」に入ることになっている(法基通9-2-28、平成10年6月23日課法2-7改正後)。この規定は語意としては安易であるが、問題のある規定である。本条の趣旨は、前述のように一定の特殊関係者に対する一定の給与の損金算入に制限を課すもので、例えば、愛人などを使って所得の分散をするのではないかというところから出発している。しかし課税庁に安易に納税者の愛人の認定をさせる趣旨ではないのはもちろん、支払った給与のうちの一部が、生活の支援を行うとした認定を行う趣旨でもないはずである。もしそうならば、すべての使用人に対して、雇用の対価なのか生活の支援なのかの判定を求めることになる。 
 C A及びBに掲げる者と生計を一にする親族
  この「生計を一にする」とは、同族関係者の範囲について(法令4条@五)の規定に準じて「有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいうのであるから、必ずしも同居していることを必要としない。(法基通1-3-4)」に準じて取り扱うとしている(法基通9-2-29)。
 次に、特殊関係使用人の判定の時期が何時かという問題があるが、給与を支給したときで判定すればよいのではないかと考える。
 (注)平川忠雄先生は、「使用人給与・賞与・退職金」税経通信12月臨時増刊53巻15号195頁で次のように述べておられる。
「 また、判定時期については、@事業年度開始日、A事業年度終了日、B特殊関係使用人の範囲に該当した日が考えられるが過大給与の制限規定の趣旨からみて事業年度開始日判定がリーズナブルと考えられる。
 しかし、特殊関係使用人となる予定の婚約者、養子等については、実際の入籍時において『役員の親族又は生計一親族』になるため事業年度中途での判定も生じるといえる。」
 
3.不相当に高額な部分の金額
 本制度では、特殊関係使用人に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額を損金不算入としている。すなわち「不相当に高額」な部分、いわゆる「過大」とは何をもって過大というのか、またその過大な部分の金額をいかに算出するかが重要なポイントとなっている。
 この過大な使用人給与の額について政令では、「内国法人が各事業年度においてその使用人に対して支給した給与の額が、当該使用人の職務の内容、その内国法人の収益及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該使用人の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」と規定している(法令72の3)。この規定は、現行の過大役員報酬の過大の判定(法令69一)と同様な内容となっている。役員と使用人と会社との関係においては委任(民法643)と雇傭(民法623)との規定の差はあるが、本稿の過大使用人給与の過大の判定にも同一すると思われることから、従来の過大役員報酬における問題点について検討する。
 過大役員報酬における不相当に高額であるかどうかは、その職務の内容、経験年数、業種、規模、所在地、収益の状況、他の使用人に対する給与の支給状況及び類似企業の支給状況等を総合勘案して判定する(広島高判昭和38年6月26日行裁例集14巻6号1177頁など)ことになるが、同業種・類似規模の類似比準法人の給与などは容易に入手することは困難であることから、この規定から直ちに不相当な金額が実務上明確になるわけではない。この様な「不相当に高額」という不確定な概念は、租税法律主義の基準の一つである課税要件明確主義の原則に反しないかが問題となる。この抽象的な定めをおく“不確定概念”は、従来より“裁量権”の踰越や乱用の危険が指摘されるところであるが、行政上では、あらゆるものを厳格に規定して一律機械的に対処することも適当でないことから、行政法上で定める規制などの場合には、不確定概念によることも合理性がある(例えば、条例でポルノ雑誌を規制する場合に何を持ってポルノと決めるかを定められるわけではなく、景観を定める建築規制をおく場合にも不確定概念によるほかはない。) と考えられている(阿部泰隆『行政の法システム(下)』654頁)。
 一方、租税法規における判例、通説は、不確定概念であっても、その立法趣旨、目的など、合理的な解釈によって、その具体的意義を明確にできるものであれば、租税法律主義に反しないとされている。しかし、租税は、侵害規範として有無を言わさず国庫に納入する義務を負い、これに違背すれば刑事罰の発動が待っている。この様な租税という課税権の行使の場においては、要件明確主義の原則は、より厳格に適用されるべきであろう。金子教授も、不確定概念を用いることは税負担の公平を図るためにはある程度不可避であり必要であるとしているが、また、不確定概念によることには十分に慎重でなければならないとしている(『租税法』第六版補正版78頁)。
 現実に課税庁が過大を認定する場合には、類似法人をサンプリングし、法人の支払った役員報酬がその類似法人の平均報酬額よりも高額であることにより認定し、平均報酬額との差額が過大とされる。しかし納税者は、そのサンプリングの抽出にかかわることはなく、そのサンプリングの取捨選択がどのように行われ、かつ、間違いなく実施されたのかについても参加することはできない。租税争訟では、訴訟の前に不服申立前置主義によって審査請求することになるが(行政不服審査法3条2項、通則法80条)、国税の場合における国税不服審判所に提出された類似法人の全資料の閲覧すら守秘義務(国家公務員法100条)ないし通則法96条2項によって納税者は比較された類似法人を検討することができず、閲覧が認められたのはわずかに「法人税決議書」と「類似法人検討表」だけだという事例もある(名古屋地判平成6年6月15日訟月41巻9号2460頁、同控訴審名古屋高判平成7年3月30日未搭載、近時の判決としては興味深い判断がされている。)。
 このように一方的に提示された類似法人による報酬の比較でのみ過大の認定をすることは不合理であり、また公平であるとはいえない。これら提示された類似法人によるものも一資料であって、むしろ公表されている各種統計資料をも含めて総合勘案して過大かどうかの判定をすべきである。前記名古屋地裁判決では、合憲性の判断について納税者は同業種・類似規模の法人の役員報酬の支給状況は入手可能な資料からある程度予想できるとし、同業種・類似規模の法人の選定は、報酬額の比較のための資料であって、業種、業態、規模、収益状況等できるだけ当該法人と類似するものであることは望ましいが、その類似性は厳密なものではなく、客観的に相当な報酬額を算定するための一資料に過ぎないとしていることからもうかがえる。
 
(注)不確定概念の違憲性について検討したものに三木義一『現代税法と人権』勁草書房203頁がある。過大役員報酬の認定基準については、大渕博義『役員給与・交際費・寄付金の税務』税務研究会出版局62頁に詳しい。
 
4.適用時期
 この規定は、平成10年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。
 
おわりに
 本稿では、平成10年に新たに新設された過大使用人給与について問題点の一部について述べた。特に、過去において本条と同旨の過大役員報酬における「不相当に高額」について裁判上の争いも少なくないことから、今後これと同じように使用人給与でも起こる可能性は否定できない。
 また特殊関係使用人の判定で争うようなことにでもなれば、租税法と言う特殊分野だけでは収まりきれないほどの大きな問題となる。
 ここでは、「不相当」とは何かについて検討したが、学説上必ずしも明確にされているわけではない。「不相当」とは、同一でないという「不相等」ともふさわしくないという意味の「不相応」とも違う。前記名古屋地裁判決で裁判所は、法34条1項の「不相当に高額な部分の金額」については、『法及び法令の文言にない「明白」とか「著しく」といった要件を付加すべき合理的根拠はない』として、「相等」(この場合には、類似法人の役員報酬の支給状況等に照らして定まる客観的相当額に等しいこと)に近い判断をしている。しかし「相当なもの」というときには“かなりなもの”という語意もあり、また、この立法趣旨が、不確定概念を用いてまで課税しなければならないのは、認められた法形式を濫用し、異常、不合理な給与の損金性を否定するためであることから、通常をわずかに超えているだけで、「不相当」とは考えにくい。客観的に濫用、異常等を認識できるだけの相違は必要であろう。
 また、過大な部分の金額は、「不相当に高額な部分の金額」の項でも述べたが、名古屋地裁の判決に示された如く課税庁によってサンプリングされた同業種・類似規模の法人のおける報酬の額は、相当な報酬額を算定するための一資料に過ぎないとしているように、納税者のサイドも一般的に公表されている資料を積極的に提示すべきであろう。なぜならば、課税庁の資料は、納税者の疑問に具体的な回答を示されず、かつ通常比較法人数が少ない。大渕教授も述べておられるように、同族会社は、法人税の負担軽減のために不相当に高額な役員報酬を支給する場合もあるが、逆に利益を確保するために、自らの身を削って役員報酬を大幅に削減するのも同族会社なのである。決算利益を捻出するために報酬を大幅に削減している一部の法人がサンプリングに適さないのは当然であるが、適当な選定が行われたかを判定することは納税者サイドには困難である。それらをチェックする一つに公表された統計資料も参考になるであろう。
 本稿のテーマである同業種・類似規模の使用人給与となると、サンプリングの方法によっては、その給与の額にかなりの高低を生じようし、賞与となると、個々の法人の特殊性・独自性が出るため業種、業態、場所、時などの僅かな相違によって、全く違った結果が出てくる恐れがある。過大な役員報酬で述べたように公表統計資料を呈示しそこから過大使用人給与を判定するとすれば、六親等以内の血族及び三親等以内の姻族に対して給与の統制令と同様の結果をもつに等しい。それならば、当該法人の他の使用人との比較も判定材料にすればいいかというと、勤続年数、責任度合、勤務時間等の勤務状況等の類似する使用人等がいることは少なく、何をもって「不相当」とするかは、役員報酬以上に判定が困難となるのでは無かろうか。果たして、この様な過大使用人給与を法定化することが税務執行が容易になるといえたかは甚だ疑問である。
 
最後に、過大使用人給与では特殊関係使用人に対する給与に限定しているが、ここで言う特殊関係にない使用人に対する給与であっても、その使用人と法人との間に業務関連性が無く、あるいは対価としての性格をもっていないものについては、損金性がないのであるから法人税法22条3項、同法132条によって課税の対象となるのは言うまでもない。
(注)給与の架空性、対価性について否認されたものに東京地判平成元年3月29日税資169号1291頁がある。
    

   Last Updated:30/JAN/1999