実質的な資産の所有者の判定をめぐる税務トラブルとその回避策

                          H10.6.26 税理士 中江博行

 

 実務においては、緊急避難的に名義を移転することや、やむを得ない事情により他人名義で資産を取得する場合など名義と実質的な所有者が相違する場合も少なくない。この様な場合に税法においてはどの様な取扱いを受けるのであろうか。例えば、その資産の名目的な移転があったときにその資産から受ける果実についての帰属はいずれにあるかのかの問題が生じる。結果、外形的には贈与とみなされ、意に反して贈与税が課税されることになったり、逆に贈与(資産の移転)を意図したものであっても贈与とは認定されない場合もある。そこで、ここでは課税物件の名義と実体、形式と実質が一致しない場合の税法上の問題について、検討をすることとする。

 

T 税法における原則

(1)実質課税の原則

 税法を支配する基本原則には、「租税法律主義」と「租税公平主義」があり、前者は、実定法律の規定によらない国民の納税義務を排除すると共にその実定法規の内容は、可能な限り厳格に解釈されるべきことを要請し、後者は、担税力に即した課税と租税の公平ないし中立性を要請している。この両者の関係は、アンチテーゼとして相互に密接な関係をもつと言われている(金子宏『租税法』[第六版補正版](弘文堂)74頁)。

 すなわち租税法律主義による厳格な解釈に配慮するあまり、実定法規の規定内容を固定的に解釈し、形式的な理解を重視する結果、租税を負担し得る能力に応じて租税を負担するという租税負担公平の原則を崩壊させられる恐れがある。そこで、税法の解釈では、これを防ぐため、実質課税(実質主義)の原則をとり、実定法規の概念や形式よりも法規を目的論的に解釈し、実現された経済的実質を重視する立場をとっている。すなわち、租税法律主義と租税公平主義が相互に連繋した法の解釈が要請される。しかし、実質主義の原則が、租税法律主義を無限定に制限しうると解してはならない(注1)。

 現行税法上では、所得税法12条で、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と規定し、法人税法11条にも同旨の規定が置かれている。これらは「実質所得者課税の原則」という標題を付しているが、これらの規定については、その標題にかかわらず実質課税の原則に関する規定と一般に解されている。(注2)

(2)法文の解釈

 実質所得者課税の原則として規定された所得税法12条の解釈においては、異なった二つの解釈が可能であるとされている。一つは、「単なる名義人」という文言が用いられていることを重視して、真の法律上の帰属者に課税することを定めたものとする法律的帰属説(法的実質主義)と、今一つは、「収益の享受」という文言が用いられていることを重視して、課税物件の法律上の帰属者と経済上の帰属者が異なる場合には経済上の実質に即して課税することを定めたものだとする経済的帰属説(経済的実質主義)が挙げられる。

 そのいずれの解釈も可能であるが、一般には、経済的帰属説によると所得の分割ないし移転を認めることになりやすく、かつ、納税者の立場からは法的安定性が害される恐れや税務行政上における経済的帰属の判定の困難性による批判から法律的帰属説が妥当だと考えられている(金子前掲書157頁)。

 しかし税法上でもこの実質課税の原則をとらず、名義人課税主義(表見課税主義)をとるものとして固定資産税の納税義務者がある。固定資産税は、固定資産の所有という事実に担税力を認めて納税義務者を固定資産の所有者としながら(地方税法343条@ほか)、徴税の簡便を図るために、賦課期日に登記簿等に所有者として登記又は登録されている名義人を所有者と扱うことにしている(同法343条Aほか)。このため単なる登記名義人で所有者でもないのに課税を受けることにもなり、憲法29条(財産権)に違反しないのかという疑問もないわけではないが、固定資産税は一時期に極めて多数の賦課を必要とするので、個々具体的に真実の所有者を判定することは課税権者にとって著しく困難であることや所有権の変動は頻繁ではなく、殆どの場合は名義人が真実の所有者と一致することなどの理由から名義人課税主義は合理性を有し、違憲な制度とはいえないとされている(最判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁(注3))。

 

U 具体的問題                       

1.所得の帰属     


 基本事例
  夫婦共有でアパートを取得して不動産所得を得ているが、賃貸人
 との契約では夫のみで行こなっていることから、全て夫の所得として
 所得税の申告をしても構わないか。              

 

(1)帰属者

 実質所得者課税の原則における、資産から生ずる収益の享受者は、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかによって判定され、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者と推定される(所基通12-1)。これは、実質所得者課税の原則が法律的帰属説を採ることからいっても明らかである。

 すなわち、基本事例の場合には、夫婦の共有持分に応じて収益が帰属すると考えられることから、夫婦のそれぞれの所得として申告しなければならない。

 

(2) 裁判等の動向

 裁判においても、夫が所有する株式の売買を妻が行った場合において、たとえ、その夫が、その取引において現実に利益を得ているか損失となっているか認識できない状態となっていたとしても、夫の包括的委任に基づくものとしてこの株式売買による所得は夫に帰属するとされたもの(最高判昭和62年5月8日、月報34巻1号149頁(注4))、別居しているが株主名簿上では、長男の住居に同居している形となっている実母名義の株主の配当による所得は、配当が一貫して長男に送付されていたこと等から長男に帰属するとしたものや第三者から納税者の子へ所有権移転登記のされている土地は、納税者が買い受けたものであり、その土地の貸付による所得は納税者に帰属するとしたもの(東京地判昭和54年9月26日、税資106号599頁(注5))、特定の土地の譲渡による所得について、第三者から確定申告がなされていても、それは真実の譲渡者の指示によってされた仮装の申告である場合には、真実の譲渡者に課税される(大阪地判昭和51年6月23日、税資89号9頁(注6))、などがある。      

 いずれも、実質認定の困難さを感ぜざるを得ない。一般的には、夫婦間以外では、実際に収入がいずれに入ったかによっている場合が多いようである。  

(3)トラブル回避策

 所得の帰属は、法律的にはいずれに帰属するかによって判定するのであるが、その判定においては、現実の管理、運用及びその利益を享受する者が誰かによることから、次項の贈与税との問題ともからみ、資料の保存等明確にしておく必要がある。

 

2.贈与課税の問題


 基本事例                    
 法令等の規制で取得者の名義とすることできずやむを得ず他人名義 
 としてしまった。贈与税の課税を受けるか。           

 

(1)贈与

 税法は、贈与により財産が移転するときを捉えて個人に贈与税を課すとしている(相続税法1条の2)。そしてこの贈与とは、民法549条以下の規定に従うべきことは疑う余地はない(注7)。民法における贈与は、無償で財産を与えるとした不要式の諾成契約であり、当事者の合意を必要とする。この点で遺贈(民法964条)と異なる(我妻榮『債権各論』[中巻一](岩波書店)22頁)。

(2)贈与課税

 税法においても贈与を認識する当事者の合意はちろん必要であるが、この贈与事実の認識は、贈与の性質及び贈与が多く親族間等の特別関係がある者相互間で行われることが多いことなどから、かなりの困難を伴う。そこで、租税実務では、対価の授受が行われることなく不動産、株式等の名義の変更があつた場合、又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として取扱うとし(相基通9-9)、財産の名義変更又は他人名義による財産の取得が行われた場合に、それが贈与の意思に基づくものでなく、やむを得ない理由に基づいて行われる場合又は錯誤に基づいて行われた場合等においては、贈与課税は行わないとしている。例えば、次のような場合において、贈与税が課税される前にこれらの名義を名義変更前に戻すか、実際の取得者としたときは贈与はなかったものとした取扱いをしている(相個通「名義変更等が行われた後にその取消し等があつた場合の贈与税の取扱いについて」昭和39年5月23日直審(資)22、改正昭和57年5月17日直資2-177、以下「名義変更通達」という。)。

 イ 財産の名義人となった者(未成年者である場合には、その法定代理人を含む。)がその名義人となった事実を知らなかったこと。

 ロ 不動産等の名義人となった者がその不動産等を使用収益していないこと。

 ハ 有価証券の名義人となった者がその有価証券を管理運用し、又はその収益を享受していないこと。

 ニ 財産の名義を変更したことや他人名義で財産を取得したことが、過誤に基づき又は軽率に行われたものであり、そのことが取得者の年齢等により確認できるとき。

 但し、この取扱いを利用して贈与税のほ脱を図ろうとした場合等は適用がない。

 基本事例の場合にも、原則としてこの名義変更通達の取扱いによって判断することになろう。

(3)裁判等の動向

 裁決、裁判で贈与を否定したものとしては、贈与を原因として所有権移転登記がなされていた場合でも、請求人は当初より真正な土地の所有者であり贈与はないとした事例(昭和50年12月22日裁決、裁決事例集11号72頁)、建築確認申請書及び固定資産税課税台帳の名義人となっている者への贈与とされた事例で贈与者が老齢であり、建築費用等の支払に対する領収書の宛名は贈与者となっているとして贈与を否定した事例(昭和51年5月12日裁決、裁決事例集12号35頁)、息子の新居を作る目的で父所有名義の家屋に増築する際に、住宅金融公庫からの資金の融資を受ける必要上、増築部分の単独登記ができないことから、父名義の家屋を贈与を原因として息子名義に登記を変更したことは、増築部分の登記のためにその実体なくしてとった便宜的手段であって、贈与はなかったとしたもの(東京地判昭和42年12月26日、時報507号22頁(注8))、株式の名義が父から未成年者の子に対してなされた場合に、名義変更後も父がその株式の管理処分を行い、処分による利益も享受している等の事情があるときは贈与の事実を認定できないとしたもの(東京地判昭和55年10月22日、税資115号213頁(注9))や夫から妻への不動産の譲渡があったとして所有権の移転登記がなされたが、売買代金その他対価の授受がないとして、夫から妻に贈与があったとしてなされた課税処分が、受贈者が、当該不動産を原資とする所得税の申告を経ていたとしても、夫に無断でなされたものであるとして贈与を認めなかったもの(京都地判昭和56年8月28日、税資120号431頁(注10))などがある。

 また、贈与を認めたものとしては、単なる登記上の名義人から真正の登記名義を回復したのではなく、名義人であった所有者からの贈与があったとしたもの(広島高判昭和48年7月24日、税資70号718頁)がある。

 ここに掲げた判決等は、贈与を否定した事例が多くなっているが、いずれの場合もその認定は困難であったろうと予想される。実際は、贈与課税される場合が遙かに多いであろう。

(4)トラブル回避策

 名義と実質が相違することの合理的な理由を明らかにしておき、その資産から利益を受ける者が名義人でないことを通帳等やその資産の管理・運用が領収書等により明確にして贈与でないことを立証できるようにする必要がある。

 

V おわりに

 以上、資産の所有の名義と実体、形式と実質とが相違する場合の租税実務上の問題点を簡単に見てきた。確かに、実体・実質の判定には困難が伴うところから裁判、裁決上や実務的な取扱いを定めた名義変更通達では、周辺事実の積み重ねや一部割り切りをもって解釈しているようである。しかし、実質課税の名において贈与でないものを贈与課税したり、現実に資産の移転されたものを移転はないとするように課税の便宜のためにのみ租税法規を解釈することは、租税法律主義が第一義的な解釈の原則であることから許されないのは言うまでもない。

 

 

(注1) 岸田貞夫『現代税法解釈』(ぎょうせい)11頁では、私見によるとして、「法律の解釈の目的が、法的予測可能性及びそれに基づく法的安定性を、まず、見出すことにあると理解する以上、その目的に直接的に寄与する租税法律主義を第一義的なものと考え、実質主義の原則は、原則的には、租税法律主義をそこなわない限り、適用されるべきと考える。」とされ、租税法規の解釈にあたっては、第一義的には、租税法律主義を適用するとしている。

(注2) なお消費税法13条、地方税法24条の2等においても実質判定の規定がおかれている。

(注3) 最高裁判決の理由に、「おもうに民主政治の下では、国民は国会におけるその代表者を通して、自ら国費を負担することが根本原則であって、国民はその総意を反映する租税立法に基いて自主的に納税の義務を負うものとされ(憲法30条参照)その反面においてあらたに租税を課し又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることが必要とされているのである(憲法84条)。されば、日本国憲法の下では、、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税の手続はすべて前示のとおり法律に基いて定められなければならないと同時に法律に基いて定めるところに委せられていると解すべきである。それ故地方税法が地租を廃して土地の固定資産税を設け、そして所有権の変動が頻繁でない土地の性格を考慮し、主として徴税の便宜に着眼してその賦課期日を定めることとしても、その当否は立法の過程において審議決定されるところに一任されているものと解すべく、従って、1月1日現在において土地所有者として登録されている者を納税義務者と確定し、その年度における納期において所有権を有する者であると否とを問わないこととした地方税法343条、359条の規定は前記憲法の諸条規に適合して定められていること明であ(る)」としている(340頁以下)。

(注4) この事件の争点の一つは、重加算税の賦課要件として、納税者の過少申告の認識が必要であるか否かについてである。この件に関しては、「重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に対し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。」と判示した。(152頁)

(注5) 本事件では、また、甥名義で登記された土地の貸付による地代収入は、その登記名義にかかわらず右土地を相続により取得した原告ら夫婦が受領しており、原告ら夫婦に帰属するとしている。すなわち、前記登記は、実体を伴わない虚偽のものであると認定した。

(注6) この事件は、また、宅地転用のために農地を譲渡した場合には、農地法5条により県知事の許可があったときに収入に計上すべきであるとしている。第一法規『租税法』判例体系[第二期版](第一法規)3127の5頁

(注7) 民法550条では、書面によらない贈与は、その履行が終わるまではいつでもこれを取消すことができることから、税法においては、履行の終了の時を財産を取得したとみている(東京地判昭和55年5月20日行集31巻5号1154頁他)

(注8) 原告、納税者の更正の請求に対して被告、税務署長のした更正すべき理由がない旨の通知の取消を求めた事件で、事実認定において登記と実体が異なるとして贈与の事実を認めず更正すべき理由のない旨の通知を取り消した興味深い事例である。

(注9) 株式の名義書換当時の原告らは、満15歳と11歳で、「親が未成年者のこの名前を使用して株式その他の有価証券を取得したり、形式上の名義を子に移転するなどのことが世上行なわれることも稀ではないことに鑑み、かかる場合における贈与の存否は、該株式その他有価証券の管理運用の実態と利益の帰属等を総合して判断するのが相当である。」としている。(219頁)

(注10) 内縁関係にある夫名義の不動産を無断で所有権を移転した事例で、内縁の解消などの紛争があった。


    

   Last Updated:21/JUL/1998