最近の租税判決を読んで H10.1.8 中江博行

最近の租税判決文を読む機会が有ったのでその中から、昨年示された実務上興味のある判決を2,3紹介してみたい。

1、代理に関する民法上の規定の納税申告に及ぼす適用範囲(大阪高裁平成9年2月25日、平成6年行コ60-62)

控訴人である納税者らは、昭和57〜8年頃、その所有する不動産を同地域の用地買収を進めていた甲社に譲渡したが、その不動産売却の条件としてこの譲渡により納める納税者らの税金を甲社が負担することとし、納税者らは同人らの納税申告を甲社の紹介する司法書士乙に委任した。乙は、納税額を少なくしたいとする甲社の求めに応じ納税者らの同意を得ずにその納税申告を丙会に依頼した。丙会は、納税者が他人の債務を保証した旨の仮装をし、主債務者に代わって不動産売却代金を返済に当てたとして納税者らの譲渡所得を過少に申告した。本件確定申告は納税者の行為として責任を負い、重加算税の賦課要件や通則法70条5項の偽りその他不正の行為の要件を充足するかが争点の一つになっている。
判決では、納税申告については代理が認められており、原則として民法の規定が適用あるいは類推適用されるとしたが、別段の定めなどの明文の規定がなくても、納税申告の性質または租税法規の趣旨からみて合理的理由がある場合にはその適用の制限を受けるとした。そして、譲渡先に税金を負担させ、申告手続きを併せて依頼した場合に、その復代理人や履行補助者の行為を含め、納税者から申告手続きの依頼を受けた第三者がその申告の課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の隠ぺい又は仮装が行われれば、その復代理人等を含めその手続きを行う者の選任、監督等について納税者に過失がない場合を除きその申告の効果は納税者に帰属し、重加算税の賦課要件、通則法70条5項の偽りその他不正の行為の要件を満たすと判断した上で、本事件の場合に納税者は、乙に依頼した申告が適切に行われないのではないかと疑いを当初から抱いていたとして、納税者に過失がないとは言えないと判断している。
隠ぺい・仮装等の行為者を納税者本人の行為に限定せず履行補助者等の第三者が行った行為に対しても責任を負うという従来の学説・判例に沿った判決であるが(最近では京都地判平成5年3月19日、判タ837号254頁に同旨の判断がある)、本判決では、無権代理行為など民法上の規定が納税申告の場合に排除され得る場合があるとした点が興味深い。しかし依頼者の責任についても認定しているところから、個々の事例によって判断すべきである点は変わるところがないと思われる。

2、平和事件(東京地裁平成9年4月25日判決、平成7年行ウ27)

本事件は、法人の役員が、自己の持株を同族関係会社に移すため、金融機関より一時融資を受け、その資金を同族関係会社に無利息、無期限、無担保で貸し付け、株式を購入させたもので、課税庁はその利息相当額につき所得税法157条(同族会社の行為又は計算の否認)を適用して更正処分を行った。 当初の新聞発表(平成4年11月30日日経他)以来、この事件は、当事者・学者・実務家によって税法誌等(Forbes93.4、税務弘報41巻12号、税理36巻5号、同39巻16号など。最近では税理40巻9号、税法学538号など)、に数多く取り上げられた事例であるので詳細は省略するが、裁判所は課税庁の更正処分を容認した。
行為計算否認規定での「不当」に関し判示するところは、本件規定の適用対象が客観的な租税回避行為に限られないとし、無利息貸付については、その金額、期間等の融資条件が同族会社に対する経営責任、経営努力又は社会通念上許容される好意的援助と評価できる範囲までであり、無利息貸付けに合理性があると認められない限り、本件規定の適用対象になるとした。
「不当」については、昭和25年改正で「税を免れる目的」から「税を不当に減少」に改めたことによって、否認の要件としては、経済的合理性を欠いた行為または計算の結果として税負担が減少すれば十分であって、租税回避の意図ないし税負担を減少させる意図が存在することは必要ではないと考えられている。しかしだからといって税を減少させる行為計算が全て否認の対象となるわけではない。25年の改正は、行為形態としての主観的な租税回避行為を立証することは困難であることから、客観的に租税回避の結果を認識できればよいと改められたもので、今日でも同族会社行為計算否認規定は租税回避行為否認行為の一種と解し、行為計算否認規定は租税回避の否認行為のために用いられるべきであると言われる(畠山武道「同族会社の行為計算の否認」日税研論集4号65頁)。この判決は不当概念と収入概念の範囲を広げ、実務上大きな影響を残した。

3、評価差額に対する法人税相当額の控除(大津地裁平成9年6月23日、平成8年行ウ3)

概略は、会社の株式等を著しく低い価額で現物出資して別会社を設立することによって、意図的に会社の株式の評価差額を作り出し法人税相当額の控除(51%)を利用して相続税評価額を大幅に軽減したところで相続税の申告を行った。現在の評価差額に対する法人税額との控除を定めた評価通達186-2(平成6年8月1日以後適用)以前の事件であるが、この事件で裁判所は評価通達(当時は相続税財産評価に関する基本通達)の意味について、租税平等主義という観点からして、評価基本通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって、租税負担の実質的な公平をも実現することができることから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ、右通達に定められた方式以外の方法によって評価を行うことは、たとえその方法による評価額それ自体が、同法22条の定める時価として許容できるものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くものであり、原則として許されないとしつつ、この評価通達を画一的に適用することが実質的な租税負担の公平を著しく害する場合にはそれによらないことが許されるとして、この事件の場合には評価通達によらないとした結論を導き出した。
結論については納得できる判決であるが、この通達によらずに相続税法の本法の規定が許容できたとしても通達が優先するという解釈は、法規としての効力を持たない通達においては通常とらないと理解していることからすると、判決が通達による法令違反をも許容していることになるではないかと危惧を覚える。評価通達といえど通達であることには変わりなく、相法22条(地価税法23条)の実質的な解釈であり、その解釈が不合理でない限りにおいて認められると理解すべきであろう。

4、旧措置法69条の4及び同法の廃止に伴う経過措置の規定の合憲性(東京地裁平成9年7月9日、平成6年行ウ255)

旧措置法69条の4(特例という)の合憲性の判断については、大阪地裁の判決(平成7年10月17日判決、金融商事判例982号21頁、解説に橋本・税経通信50巻16号100頁、増井・法学教室184号104頁)に同旨で、この特例の法律自体は財産権の侵害(憲法29条)に当たらないが、特例を適用して算出した税額が取得した財産の相続時の時価以上となり、相続税課税の趣旨を逸脱して著しく合理性を欠くことになれば、特例を形式的に適用することは憲法で保証された財産権を侵害する疑いがあるとした。ただしこの事件の場合、本特例が平成8年に廃止(法律17号)されたことに伴い平成7年以前の相続について経過措置(改正措置法附則19B)が講じられ、これに伴って算出した相続税額が特例適用対象の土地等を相続した相続人は課税遺産総額がマイナスないし零になるのに特例対象以外の財産を取得した相続人にはこの経過措置の適用がない事例であった(大阪地裁の例では、特例対象土地等を取得した相続人が単独取得した。)。この経過措置が相続人間で取扱いを異にするのは法の下の平等(憲法14条)に違反しないかで争われたが、判決では理由がないと退けた。
法が廃止されているので、以後この種の事件がおき、問題となることは少ないと思われるが、法令についても、立法趣旨など合理性がないと判断されれば違法となる場合もあることから、法の適用も機械的に行なうだけでは、法を正しく解釈したことにはならない。特例適用対象の土地等を相続した相続人の場合には、当初から、この法律の適用をしなければ、納付税額がゼロないし減額されることになるが、取得財産の価額より納付税額は少ないこと、立法自体は違憲ではないことから、裁判所の判断はやむを得ないであろう。

5,路線価の時点修正と通則法24条の解釈(東京地裁平成9年9月30日判決,平成8年行ウ115)

この事件は,相続税の申告での土地の評価について、相続開始年の路線価から、近隣標準地の公示価格の年間下落率の平均に相続開始日までの日数計算を行って路線価を下方修正した納税者の申告に対して、課税庁は路線価は正常な価格としての公示価格の概ね8割程度となっているとして路線価を0.8で割り戻した価格を標準地におけ公示価格の地価下落率を基に時点修正を行った(鑑定士の鑑定評価によるものとしては、東京高裁平成9年6月26日判決、税務事例29巻11号23頁がある。)。結果として裁判所は課税庁の主張を認めたが、この事件では、通則法24条の解釈についても争点になっている。
また、この事件については、TAINS(税理士情報ネットワーク)の税務訴訟コーナーで種々の意見が書き込まれている。判決文で気になったところは、第3争点に対する判断の2で、「税務署長の処分である更正(通則法24条)は、税務署長の調査したところと納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が異なる場合にはなし得るものというべきであって、更正を行い得るのは納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が『国税に関する法律の規定に従っていなかったとき』に限定されるとは解されないのである。」としている。それ以前の判決文のパラグラフから飛躍しているのか、読み方が十分でないのか判らないが、法に従っていないときも更正できると読めてしまう。更正とは、納税義務者の申告した課税標準等又は税額等が課税庁の調査したところと異なる場合に、課税庁が第二次的に納付すべき税額等を確定する処分で、法に従っていなくても更正できるとは解されていない。(この事件については、三木義一「判決の緒=税理士“春香”の事件簿」税研13号92頁に発表された。)

おわりに

租税法令の解釈については、幅の広い運用の余地を残す法令も少なくないことから、租税判決によって法令解釈の明確化が図られる場合もある(不確定概念など。前記の同族会社の行為計算の否認の規定でも同族会社に限定されるのかで判断が分かれている)。しかし、租税判決要旨のように結果だけ見たのでは明確な解釈を得たことにはならず、どのような前提の下に判決がなされたかが法令解釈の基になりその他の法令の解釈にも影響を及ぼすことになる。このため、税理士にとて判決文の研究は欠かすことはできないが、税法分野でいち早く公刊される裁判例は少ない(以前は「シュトイエル」があった。)。このような判例誌の発刊を望みたい。
    

   Last Updated:25/JAN./1998